いずれにしてもウクライナ戦争後の地政学的国際秩序がどうなるかには不確定要素が多い。プーチンが勝利し、或いは、膠着状態となれば、その過程で欧州の安定が脅かされ、アジアでの中国の力による現状変更への道を開く恐れがある。逆に、対露経済制裁とウクライナ間接支援によりプーチンが妥協しウクライナが生き延びれば、西側諸国の経済制裁の抑止力が評価され、アジアにおける力による現状変更の試みに対しても歯止めとなろう。
司法権など国際秩序の礎も重要
バイデンは、ロシアとの直接軍事衝突が第三次世界大戦になりかねないことを恐れ、条約上の防衛義務がない限り、ロシアに侵略された国に対し集団的自衛権は行使しないとの原則を明確にした。この原則は、今後万が一ロシアがモルドバやジョージア、或いは、フィンランドなどに侵攻したとしても当てはまるのであろうか。そうであれば、是が非でもウクライナについて経済制裁や間接軍事支援だけでプーチンを挫折させなければならず、中国に対する牽制も重要であり、日本企業も有事に備える必要があろう。
第三次世界大戦を避けたいとの考慮が、米国とロシアの指導者に非対称的に作用するとプーチンが思い込めば、今後もロシア、中国、更には北朝鮮が、その要求を実現するために武力や核を威嚇手段として用いる可能性も排除できない。また、これまでの相互確証破壊理論や核の傘による拡大抑止の考え方がどう影響を受けるのかもポスト・アメリカ時代において極めて深刻な問題になると考えられる。
ポスト・アメリカ時代を前に、領土や独立の不可侵、武力や核による威嚇禁止、国際人道法の遵守、核不拡散、更に表現・報道の自由等の人権の尊重、公正で独立した司法権などの国際法や国際人権法の原則を国連総会の場で再確認する決議を採択するといったことも意味があるのではないか。ロシアや中国はともかく、国連緊急総会の対ロシア非難決議に賛成した国々の間で、これらの原則を改めて共有することは、新たな国際的秩序の枠組みを模索する基礎となるのではないか。