・政府としてはすでに、ロシア相手に取引を続ける国際企業に対し、国内法の規定に基づき制裁を科すことは可能であり、実施するとすれば、その狙いが、日欧諸国以外の中国、インド、湾岸諸国などを対象とした「第二次制裁」にあることは明白だ。
・この措置は過去にも発動されたことがあり、アジアを含む多くの国にも「ロシアにつくか、西側と協調するか」の選択を迫ることになるため、経済的に国際間抗争をかきたてることは必至だ。しかし、きわめて強力な制裁となることは確実であり、かつての戦時海上封鎖に匹敵する〝財政的封鎖〟を意味している。
・ロシアはいまのところ、西側諸国によるさまざまな制裁措置にもかかわらず、①石油、天然ガス輸出による多額の収入の道をいぜん確保している、②しかも、ウクライナ危機によりエネルギー価格が高騰を続けている、③ロシア中央銀行が外貨取引に厳重な規制を敷いている、④欧州諸国が制裁後も、ロシア産石油、天然ガス輸入を続けているなどの理由から、困難な状況を予想以上に耐え忍んできている。
・ウクライナのゼレンスキー大統領の経済顧問を務めるオレグ・ウステンコ氏は、ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで「ロシアの石油輸出はむしろ、侵略前より増加した」として、買取りを防止するための制裁を関係諸国に科すべきだとアピールしたほか、米議会でもパトリック・トゥーミー上院議員(共和)が、「中国はじめすべての国」によるロシア銀行との取引を禁じる「第二次制裁」に踏み切るべきだと主張している。
・米外交評議会有力メンバーのアリエル・コーエン氏も「第二次制裁」について「要するに、ロシアと従来通りの取引を続けるならば、わが国との貿易を断念すべきだ、ということを意味しており、あらゆる国が対象となる」と断じている。
・欧州諸国がロシアから石油、天然ガスを買い続ける一方で、他の諸国に自制を求めるよう説得することは簡単ではない。しかし、戦争が長期化してきた場合、さらなる制裁は必至であり、その場合、米政府としてはとりあえず「一握りの国際企業」に対する制裁を科すことで、他の国の企業も付き従わざるを得なくなるという方策もあり得るだろう。
上記のように、最近になって「第二次制裁」措置が検討され始めた背景には、ロシア経済の基盤をなす石油、天然ガス対外輸出そのものに手を付けない限り、プーチン体制に痛烈な打撃を与えられないとの現実認識がある。
米石油業界の試算によると、ロシアは現在もなお、石油、天然ガス輸出により1日当たり5億ドル以上もの収入を得ており、国家収入全体の5割近くを占めていると言われる。このため、ロシア産石油、天然ガス輸出をできる限り封じ、ロシア経済を窮地に追い込むことこそが、ウクライナとの停戦早期合意につながるとの判断にほかならない。
イラン制裁の時とは異なる今回の事情
今世紀に入り、米国が「第二次制裁」を発動した端的な例として挙げられるのが、2011年の対イラン制裁だ。
この当時、オバマ政権はイランによる核開発の動きを封じる目的で、イランから石油を購入してきた日欧諸国に対し厳しい経済制裁措置を打ち出した。この結果、イランの国家財政はたちまちピンチに直面、やがて核開発凍結に向けた交渉に応じざるを得なくなったという経緯がある。
しかし今回の場合、「第二次制裁」の主たる対象が、ロシアと近い関係にある中国、インドなどの諸国となることが予想されるだけに、ハードルは極めて高い。
とくに昨年6月、ロシアとの間で期限切れを迎えた「善隣友好協力条約」の延長を正式決定したばかりの中国は、ロシア軍のウクライナからの即時撤退を求めた先の国連緊急総会決議案採択の際にも、「棄権」に回っただけでなく、その後も、ロシア軍侵略自体に対する直接批判を避けてきた。
このため、米ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は去る3月14日、ローマで中国共産党の楊潔篪共産党政治局員(外交担当)と7時間近くにわたり、突っ込んだ会談を行った。米ジェン・サキ大統領報道官はその内容について「サリバン氏は、中国が対ロシア制裁を骨抜きにするような行動に出た場合の『さまざまな結果』に関して率直な見解を述べた」と述べただけで、楊氏側がこれに対し、どう応じたかについては具体的に説明を避けた。ただ、サリバン氏は会談の席上、「第二次制裁」発動の可能性についても言及したことは確実とみられている。
また、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は今月1日、急遽、インドの首都ニューデリーでスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相と会談した。会談後、ラブロフ氏は「インドが(ウクライナ問題について)偏った見方をとらず、全体の状況を見ていることに感謝したい」と語った。同外相の突然の訪印は、米国が検討中とされる「第二次制裁」を念頭に、欧米による対露制裁に同調しないよう事前にクギを刺す狙いがあったことは確実だ。