都道府県「子ども」幸福度ランキング
幸福度調査に関して、どの指標が最もふさわしいのか迷いが生じてきたが、ここでもう一度ユニセフの指標を見直してみると、心の健康に関しては個人の主観(満足度回答や自殺行動)が重視されているのに対し、身体の健康では客観的指標(死亡率や肥満度)が用いられており、その意味では主観・客観のバランスが取れているといえる。また、能力の面でも、PISAの試験スコア(客観)と友達が作りやすいと感じているか(主観)の組み合わせによっているとみることができる。
そこで、本稿の都道府県別子どもの幸福度指標においても、主観と客観を組み合わせた指標を開発することとする。ここでは、表5に挙げた心、身体、能力の3項目による簡便な指標を作成することとした。いわば「心・技・体」の評価である。
表5に示された項目による都道府県のランキングの試算結果は以下の表6のとおりである。これを見ると、上位7県は地方が優勢であるようにみえるが、広島県、埼玉県の大都市を含む地域もランクインしている。
都市については、東京都は上位3分の1程度の14位、愛知県は中位から下位3分の1程度の28位、大阪府・神奈川県は下位の方である。下位7県は地方部の県がランキングされている。ここから判断すると、子どもの幸福度の指標値に関しては、「都市だから有利、地方だから不利」などの地域的な差異はないようである。表6の結果は全国を順に並べたものであって、「下位の都道府県の子どもが不幸」を意味するものではないことに注意して見る必要がある。
最後に、この心・技・体の3つの指標のランキング間に何らかの相関があるかを調べてみた。例えば、学力の能力が高ければ心の状態は良いのか、あるいは身体の健康は学力の良さにつながるのかなどである。
結果としてランキング間の相関の絶対値は0.1前後で、有意な相関があるとはならなかった。このことは、子どもの幸福を増進させる政策は、どれか1つを行えば他もついてくるというものではなく、各政策を3つどもえで偏りなく進めることが必要であるといえる。
ただし、3つの指標において実績値が最大の地域と最小の地域の格差をとったところ、心の状態は1.2倍の格差、身体の健康は4.9倍の格差、そして能力の格差は1.1倍であった。能力の地域間格差が一番小さいことは、初等・中等の義務教育の公平性の効果が表れたものと評価される。ここから、もし政策的に重きを置くとすれば、身体の健康(ここでは5歳から14歳の死亡率)の差異の解消が優先されるといえる。
このランキングは、心と身体と能力のランキングを単純に足し合わせて点数化したややラフな指標値ではあるが、子どもがどこで育っても「都市か地方か」という意味での有利・不利がないということは試算して安心した気持ちを持ったところである。ただ、日本が世界トップとされている身体の健康は地域間格差が出ており、下位に低迷した心の状態は全国的なものと言える。身体の健康は格差是正、心の状態はボトムアップが必要となるのであろう。