もちろん、インド側も大規模な部隊を配備している。最新鋭の戦闘機、地域の高い高度でも活動できる戦闘ヘリコプター、各地から集めた戦車部隊なども、大規模に展開させている。
例えば、米国のウクライナ支援の一環としてニュースに名前が出るようになった155ミリりゅう弾砲M777についてだ。インドは、米国から、このりゅう弾砲と、ミサイルのように誘導する砲弾を購入し、印中国境に配備している。中国側拠点を正確に攻撃することが可能だ。
同時に、インドは、これらの部隊に補充・補給を行うための、インフラ建設や、輸送機、輸送ヘリコプターの配備に取り組んでいる。
最近では、道路ができただけでなく、観光客を呼び込み、印中国境地域をインド側が実効支配していることを、世界の人々に見せる取り組みを計画している。そのために、印中国境の道路に75カ所、レストランやトイレなどが集まった便利な施設を整える計画だ。イメージとしては、高速道路のインターチェンジの簡易版といったところだろうか。どちらにしても、印中国境地域の緊張状態は2年間、解けないままなのである。
中国にとって重要度を増す印中国境
なぜ中国は、印中国境で緊張を高めたままにしているのだろうか。標高は5000メートル以上もあり、冬は気温マイナス30度にもなるから、人もほとんど住んでいない。そんな場所が最新鋭の兵器を集めて、軍人たちが命を懸けて戦うほど、重要なのだろうか。
中国の行動を見る限り、重要だということなのだろう。では何が重要なのか。
印中国境に面しているのは、中国が支配するチベットと新疆ウイグル自治区である。実は、今、中国にとってこれらの地域の重要性は高まりつつある。
一つの原因は、チベットに資源があるからだ。まず、チベットは水資源豊富な地域である。南アジアに流れるインダス川、ガンジス川、ブラマプトラ川だけでなく、東南アジアのメコン川や、中国の黄河や長江に至るまで、すべての河川の源流はチベットにある。
今、中国は、この水資源をこれまで以上に重視している。中国沿岸諸都市の経済発展が進み、より多くの水資源が必要になっているためだ。水資源を都市部により多く引くことが重要だ。
しかも、水資源の使い方は都市に持ってくるだけではない。新疆ウイグル自治区にもっていって、そこに大農業地帯をつくるなどの方法で、都市部で消費する食糧生産につなげることもできる。
さらに問題なのは、地球の温暖化がもし本当であれば、チベットの水資源はいずれ干上がる可能性が出ていることだ。他の国が使う前に、中国は水資源を少しでも多く使いたいのである。
それに加えて、チベットには水以外に、鉱物資源などがある。これまで山がちな地形のために開発が進んでこなかった。中国はそこにも注目している。