2024年12月14日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年4月10日

 しかし、架台にマウントしても、機関銃だとそうはいかない。射撃する際の銃身の反動は大きい。自衛官にはライフル又は拳銃による射撃訓練が義務付けられているが、そのような小銃でさえ反動は大きく、筆者は30年撃っても好きになれなかった。更に、艦艇には動揺も加わる。洋上で機関銃射撃する場合、精密射撃などほぼ不可能だ。筆者が米海軍艦艇で教わったのは、近距離から撃ち始め、水しぶきの線を目標に近付けていくという撃ち方だが、目標周辺に弾幕を張る撃ち方もある。

 いずれにしても、的をピンポイントで狙うことは出来ない。私が司令を務めた航空隊でも、ソマリア沖海賊対処部隊にヘリコプターを派遣する前に、飛行中の機関銃射撃を実施させた。実際にヘリコプターから機関銃射撃を行えば、スキフ(海賊母船から出て実際に海賊行為を行う小舟)などは、船体も乗員も木っ端微塵になってしまう。機関銃射撃は、相手の被害極限が極めて難しいのだ。

何のための射撃だったのか…

 今回、ベトナム漁船に射撃したとされる中国海軍037IS型駆潜艇「786 万寧」は500トンに満たない小さな艇で、その対水上用兵装は2連装37ミリ艦砲と14.7ミリ機関銃である。ベトナム政府が主張するように、中国艦艇による5発の発砲の内1発が漁船に命中し、搭載していた4つのガソリンタンクとともに火災を起こしたとするなら、37ミリ砲による射撃が漁船の上部構造物の上に搭載していたタンクに当たった可能性がある。幸運にも船体には当たらなかったということだろう。

 しかし、そうすると何のための射撃だったのだろう? 20メートルまで近接して撃ったとされるが、相手より優速であれば、射撃せずとも停船を求める手段はある。停船要求の警告射撃だとしても、船体に向けて撃つことはない。一方で、最初から相手に危害を加えるつもりだったとすれば、これだけの近距離で命中させられないということも考えにくい。更に、中国側が主張するように信号弾を空に向けて撃てば、火災の原因にはならない。

 だとすると、威嚇目的で故意に船体近くを射撃して当ててしまったのか、または信号弾を上空ではなく船体に向けて撃ったのだろうか? これだと、漁船の上部構造物が破壊されずに火災だけ起こしたことの説明は付くが、中国海軍の末端部隊の資質は極めて低く何をするかわからないということになる。或いは、艦艇による射撃ではなく乗員が小銃を撃ったか、通常考えにくいことだが、ベトナム漁船の自作自演の可能性もゼロではない。

東シナ海への影響を認識する中国

 結局、双方の主張が全く異なり、客観的な漁船の被害調査が行われていない現状では、何が起こったのか断定はできない。


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