2024年11月24日(日)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年8月1日

 また大学の国際的なレベルを見ても、英国の高等教育専門誌「Times Higher Education」が毎年発表する「THE世界大学ランキング」において、04年には東京大学は12位、京都大学は29位で、東京工業大学や大阪大学、東北大学、名古屋大学は200位以内にランクインしていたが、22年版において200位以内は35位の東大、61位の京大のみで、他の大学は軒並みそれ以下に転落してしまっている。

 これは単に「学力の低下」という観点だけで捉えてはならない。日本の安全保障への対応力がますます脆弱になっているともいえるからだ。

「科学」を軽視していては
イノベーションは生まれない

 この遅れを取り戻すのは容易ではない。科学には時間がかかるからだ。

 例えば、東工大栄誉教授の大隅良典氏が16年にノーベル生理学・医学賞を受賞した「オートファジー(自食作用)」の研究は、1992年の発見から、重要性が広く認知されるまで10年以上、ノーベル賞まで24年を要した。このように、ノーベル賞を受賞するような科学分野の研究の多くは、研究者が20~40代の若手の頃に行ったものが、後年になって評価されたものだ。

 前出の国立大学の教授は「技術やイノベーションが生まれるのは科学の土台があってこそ。だが科研費などの競争的資金はリターンを予想しやすい技術に向けられがちだ。短期志向の投資では、科学は細っていく一方だ」と指摘する。

 日本においては「科学」「技術」「イノベーション」が混同されがちだが、そもそもこの3つは別ものである。科学は「0から1を生み出すこと」であり、新たな現象や理論を発見する研究を指し、成果を予測するのは不可能であり、役に立つか否かは重視されない。一方、技術は「1を100に発展させること」であり、科学の研究成果を医薬品や電気製品など役に立つものへ発展させることを意味する。そしてイノベーションは「100を1万、1億にすること」だ。

(出所)各種資料を基にウェッジ作成 写真を拡大

 科学技術史に詳しい新潟大学人文社会科学系の佐藤靖教授は「基礎研究が強い国は、人材も強く、イノベーションにつながる可能性が高い」と話す。まさに、米国はそれを体現していると言えるだろう。

 時間もかかり、リターンも予見しにくい科学を担う若手研究者の置かれている不遇を改め、いかに支援すべきか。東大大学院理学系研究科の戸谷友則教授は「基礎研究は急にはできない。期限付きの短期研究に投資するカネを、任期なしの若手雇用にまわすことも検討すべきではないか。このままでは、50年先、100年先を担う人材がいなくなり、科学技術立国・日本の未来が危うい」と指摘する。

 一方で、任期の有無とは別に、人的な流動性も求められている。

 東大で博士号を取得し、米国のある州立大学で物理の研究をしている日本人のポスドクは「ポストが任期制なのは米国も同じ」としながらも「米国では、世界の最先端の研究者とじかに触れ合える」と話す。

 またポストの絶対数は米国の方が多いとされるが「米国内だけでなく世界から優秀な人材が集まる分、ポストの獲得競争は米国の方がむしろ厳しい。日米間での何よりの違いは、米国企業はアカデミアの人材を積極的に採用していることだ。ポスドクとして何年か経験を積んでから企業でデータサイエンスを担うなど、企業への道が開かれている」(前出のポスドク)


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