表3には、まずX欄に各選挙区の定数が示されている。隣のP欄には有権者数の代わりに、選挙当日の投票者数(選挙区)を示した。Q欄は、参考値としてこの投票者数Pを表2の有権者数Yで除したものであり、いわば投票率に相当するものである。
今回の選挙では、山形県の0.619が最高で、石川県の0.464が最低であった。そして、R欄が実際の投票者数を基準として定数を評価した「事後的な1票の重み」である。これを見ると最も値が大きい選挙区は佐賀県の2.908であり、最も値の小さい選挙区は東京都の0.926であった。
この結果にもとづいて、事後的な1票の重みの格差を示したものが、S欄である。これによると選挙区間の格差は3.139倍となり、表2に示された事前的な格差3.030倍を上回っていることが分かる。
このような違いが生まれた理由は、表2で1票の重みが最も大きな値となった福井選挙区に次ぐ佐賀選挙区の投票率が0.511と福井選挙区0.553を下回ったことにより、より少ない票数で議席1を選出する構造となったことによる。同様に、表2では神奈川選挙区とほぼ同水準のであった東京選挙区の投票率が神奈川選挙区よりも大きくなったことにより、東京選挙区では1人分の議席を選出するために投じられた票数が大きくなり、1票の重みが小さくなったためである。
誤解のないように繰り返して言うと、これは選挙制度上の問題というよりも、有権者の投票行動の結果、事後的に生じた差異である。ちなみに、表2で大きな差異となった福井選挙区/神奈川選挙区の格差3.139は、表3では2.985(=2.846/0.953)とやや縮小している。また、表2のZで試算された1票の重みと表3のQで表された投票率の間には明確な統計的相関は見られなかった。
実際は何票で当選するのか
表3では、有権者数ではなく実際の投票者数で1票の重みを検討した。このように、実質的な重みで選挙を評価しようとして話を突き詰めていくと、最終的には1議席何票で当選することができたのかということに関心が向いてくる。
すなわち、表3の投票者数全部の票が「当選した候補」に投票されたわけではなく、例えば定数1で候補者数3であれば、当選者は3人の中で最多数の票を得ればよいことになるからである。そうすると、有権者数よりも投票者数の方が小さく、そして当選した候補の得た票はさらに小さいことになる。そこで、当選した候補が得た票数を基準として「最終的な1票の格差」を試算してみた。結果は表4に示されている。
表4では、X欄の定数を、T欄に示された当選者の総得票数(定数3であればその3人の得票数の合計)で除し、U欄に最終的な1票の重みを示した。V欄はその格差である。
この結果は、表2(有権者)や表3(投票者)ベースでは地域間の格差はおよそ3倍であったことに対して、当選者の総得票数ベースでは福井選挙区対東京選挙区で最大5倍の格差が生じうることを示している。