しかし、同工場は、赤外受発光素子やテレビ向け以外のLEDなど、外販で競争力のあるオプトデバイスも生産してきた。プラズマテレビ関連は撤退したとしても、戦える商品は残して少しでも地元に雇用を残せないかという動きがあったが、実現していない。隣の宮崎県では、撤退する企業が敷地や設備を安価に譲り、工場長以下を独立する形(EBO=従業員による買収)で、工場を存続させたJUKI子会社の例もある(弊誌12年10月号特集で詳報)。
しかし、パナソニックの場合、工場、それを経営する子会社(デバイスオプティカルセミコンダクター社)、それを管理するBU(ビジネスユニット)、さらにドメイン、本社と、組織が相当重層的であるため、判断に時間がかかりすぎるようだ。
将来の姿が見通せない
津賀社長は今年1月に、米ラスベガスで「パナソニックの強みはマクロ(グループ全体)にあるべき。なければ大きな会社を維持していく必要がなくなる」と語ったという。まさに、マクロとしての強みを生かし切れないのであれば、大きな会社を維持することなく、解体していけば良いのである。そもそも、パナソニックが総体としてどういう会社になるのか? という姿は見通せない。
テレビなどのデジタル家電を縮小し、ヘルスケアの売却を模索する。伸ばすのはアビオニクスが手掛ける航空機向けの機内エンターテインメントシステムや、自動車部品などのBtoB事業だという。成長領域としては自動車関連や住宅関連を挙げ、それぞれ18年に2兆円事業にするとしたが、具体策は明確でない。
パナソニックの存在理由は何なのであろうか。松下幸之助氏は、産業人の使命は貧乏の克服であると「水道哲学」を唱え、電化製品が安く人々の手に入る社会をつくり、「主婦を労働から解放する」と訴えた。BtoB事業は最終製品をつくる企業があって成り立つ、受け身の事業といえる。会社の方向性を分かりやすく説明できなければ、社員もついていけないのではないだろうか。
2期連続で7000億円を超える前代未聞の赤字を出し、およそ60年ぶりに無配に転落する。にもかかわらず、6月末で取締役を退任するのは大坪会長と桂靖雄副社長の2人のみ。桂副社長は役員定年の内規に従って辞めるだけで、実質的に責任を取った形になるのは大坪会長だけだ。「普通の会社ではない」と危機感をあおり、前任者を否定するような施策を打ちながら、一方で経営陣をほぼ温存してしまったことで、社内で津賀社長への期待感はしぼみ始めている。
赤字事業をなくすために、開発、生産、販売を一体化した事業部を復活させるという津賀社長の方針は正しいだろう。問題はこれまでの経営判断の遅さを抜本的に改革するために、権限と責任を事業部にいかに移譲できるかである。各事業部が「独立」してもやっていけるくらいの機敏さを実装できるかどうかだ。パナソニックはまさに「解体」的出直しを迫られている。
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