2022年10月6日(木)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年8月2日

»著者プロフィール
閉じる

冷泉彰彦 (れいぜい・あきひこ)

作家・ジャーナリスト

ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『「反米」日本の正体』(文春新書)など。メールマガジンJMM、Newsweek日本版公式ブログ連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

実際に必要な3つの打開策

 では、具体的にはどうしたらいいのだろうか?

 1つ目は、どうして日本ではIT系の起業が難しいのかというと、抵抗勢力が強いからだ。標準化を伴う正しい電子化を行うと、爆発的に業務が効率化し、雇用や取引利権などの既得権益が吹き飛ぶので、岩盤と言われる抵抗勢力が介入し、紙の世界や例外対応を残して改革を骨抜きにする。

 それでも技術が進歩する中では電子化による効率化の流れは止めようがない。その場合に、既得権益を崩すのは外資に任せて、国内の新世代による改革はあくまで拒むという体制がある。ネット通販一つとっても、既得権益を崩すのはアマゾンに任せる一方で、楽天の活動には今でも公取などが足を引っ張っているのがいい例だ。

 また、若手中心のベンチャーが潜在力を持っていても、「実績がない」とか「信用がない」という理由で、企業も官公庁もダイレクトな発注を渋る。そこで、「ITゼネコン」と呼ばれる大手に発注するのだが、大手には最先端の技術力はないので、結局は「中抜き」した上でベンチャーに丸投げになる。

 その結果として、ベンチャーの体力はつかない。この場合は、発注側も元請けも実は抵抗勢力なのだが、そうした反省はない。

 本当に起業を応援したいのであれば、そして新世代の起業を通じて日本経済の生産性と競争力を回復したのであれば、こうした抵抗勢力の妨害を止めるのが最優先である。

 2つ目は、資金調達の問題だ。日本で「ユニコーン企業」が生まれない理由としては、資金力の問題が大きい。日本にはまだ個人金融資産が2000兆円あるが、高齢者の生活資金が主であり、リスク選好度は極めて低く、その結果として、巨額な国債残高と相殺されているのが現状だ。そうなると、ハイリスクハイリターンのベンチャー資金については、国外で起債・調達する必要がある。けれども、円安が進行すると、円で経営している企業には、外貨建ての資金調達のリスクは膨張してしまう。

 この資金不足という問題については、民間で対応できるレベルを超えている。政府には、シリコンバレー見学などという悠長なことをする資金があるのなら、真剣にこの問題と取り組んでもらいたい。

 3つ目は、人材育成の問題だ。日本でテック関係のベンチャーが育たない背景には、1975年前後から2015年前後までの40年間、コンピューター技術者の育成を怠ってきたことが大きい。原因は、プログラミングという専門性の高い職務内容について、経営者も社会も正当な評価をして来なかったことにある。

新着記事

»もっと見る