2024年11月22日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年8月2日

 1975年前後のある時点から、どの企業もコンピューター技術者は「潰しの効かない専門職」だとして、幹部候補生から外し、更には部門ごと別会社化した。そんな中で、プログラミングを習得した上で、経営的な大局観を持つような人材はほとんど育成されなかったのである。

IT化の遅れ取り戻しが日本経済の処方箋

 今、喫緊の課題として着手しなくてはならないのは、経営論や文明論を議論できる人材にアルゴリズムやプログラミングの教育を施すことであり、同時にプログラミングのできる人材に経営論や文明論レベルの大局観を持たせることだ。

 具体的には、各産業において30歳前後の幹部候補生を、世界の一流の大学に学士入学もしくは修士課程に送ってコンピューター技術の最前線を学ばせることである。また現役のコンピューター技術者を、同じように世界の一流のMBAに挑戦させることだ。

 アナログ作業が多く残り、旧世代の理不尽で非効率なマネジメントに疲弊していた実力派人材は、「本当のコンピューター利用」の意味と「本物の技術」という武器を手にすれば、日本経済の壊死した部分を徹底的に切り捨てて再生してくれるだろう。

 同時に、「ITガテン系」などと蔑まれ、コロコロ変わる発注側の気まぐれな仕様変更に無償で振り回された挙句に、報酬を中抜きされてきた現場の人材も多い。そうした人材が、経営と文明の視点を得て下剋上を果たして、徹底した標準化と自動化を進めれば、日本経済の生産性は一気に向上するであろう。

 大卒者50%、識字率ほぼ100%という超高度教育社会である日本が、30年にわたる経済の低迷に喘いでいるのには多くの原因がある。だが、IT化の遅れが一番の原因だということは明らかだ。改革への抵抗を潰し、資金を調達し、テックと経営の二刀流人材を正しく育成すれば、遅れを一気に取り戻せるのは間違いない。

 その意味で、今回の「シリコンバレーに1000人を送って人材交流」というアイディアは、どう考えても常軌を逸している。

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