2024年4月29日(月)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年8月2日

 萩生田光一経済産業相は、ワシントンDCでの外務・経済閣僚による「日米経済政策協議委員会」(経済版2プラス2)会議に参加する途上の27日、カリフォルニア州のグーグル本社を訪問後に記者会見した。そこで、起業家を育成するため毎年200人規模の人材を5年間、計1000人を日本から派遣するという構想を明らかにしている。

(Tick-Tock/gettyimages)

 全く理解不能な発想だ。テック関係の起業を活性化するには、そんな政策が有効ではないことぐらい、優秀な経産官僚も、清和会のホープだという大臣自身も当然理解しているはずだ。にもかかわらずこうして現地で発表してしまったことについては、どう考えても理解に苦しむ。

理解すべきシリコンバレーのエコシステム

 まず、この種の人材交流が意味ないことは、とりあえず以下の2点を議論すれば明らかであろう。

 1つ目は、そもそもシリコンバレーでの人脈というのは、ギブアンドテイクで成り立っている。話を聞きたければ、興味深い情報を持って行く。協業や提携を持ちかけるのなら、相互にメリットのある話にする。そうした当たり前の「意味のある」面談や人材交流でなければ人脈は成立しない。

 その意味で、そもそも日本人や日本企業は「即決できる人物が出てこない」ことから、協業へ向けた面談に時間を割いても意味がないということで嫌われていた。安倍晋三政権がテック人材の派遣を始めた頃からは、「単に話を聞くだけで、意味のある質問すらしない」ということで、悪評がさらに悪化している。その上で、今回の毎年200人というのだから、シリコンバレーにとっては、そもそも優秀な人物に会うことだけでも、相当に難しいだろう。

 2つ目は、仮にこの1000人の中に、将来の潜在的な可能性を秘めたアイディアを持ち、本物の起業意欲を持っている人材がいたとする。その場合は、シリコンバレーは恐らくそうした人材を見抜くであろうし、日本側が用意する条件の何倍もの好条件で引き抜かれるのがオチであろう。その人物が、あくまで自国に貢献しようと決意していても、資金調達の問題がネックとなり、結局はアイディア込みで人材が流出して終わる可能性が高い。


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