それでもくすぶる共和党内の不安
これに対し、共和党主流派の間では、「早期出馬表明」は、かえって中間選挙で、各州の同党候補が不利な戦いを強いられる結果を招くとして、懐疑的見方も少なくない。
こうした懐疑派の見立てによれば、①ここ1カ月の間で、昨年1月6日のトランプ支持過激グループによる連邦議事堂乱入・占拠事件「1・06事件」に関する下院特別調査委員会審議を通じ、トランプ氏自身が準備段階から深く関与していた疑いが濃厚になり、各州においてトランプ批判が広がりつつある、②もし、「早期出馬表明」によって11月中間選挙前のメディア露出が拡大すれば、かえって極端な「トランピズム」自体が民主党候補の格好の標的スローガンに利用される、③その結果、中間選挙で万が一、民主党の善戦を許すことになれば、次期大統領選挙戦において、トランプ支持の低迷を招くのみならず、他の共和党候補が立候補した場合の勝利の芽をも摘み取ることになる――という。
実際に、ワシントン・ポスト紙が4日、アリゾナ、ミシガンはじめ10州近くの接戦州で実施した共和党有権者動向調査を報じたところによると、知事選などの予備選では、トランプ氏推薦候補支持者が多数を占めたが、トランプ氏自身の次期大統領選出馬については、「年齢の若い後進に譲るべきだ」「過激なトランプ主義は支持できない」といった冷めた見方が多いことが明らかになっている。
すなわち、中間選挙の各州予備選段階でトランプ氏が後押しする候補が勝利したとしても、それがそのまま共和党支持層が次期大統領選に向けた「トランプ候補」への投票に直結しない、というわけだ。
トランプ出馬問題について最近、多くの共和党上院議員たちと意見交換したという同党重鎮の一人、ダン・エバーハート氏も、「有権者は、そろそろトランプにお引き取りを願いたいと思い始めている。実際、彼の存在は中間選挙でのわが党の戦いにおいて、順風というよりむしろ逆風となりかねない状況だ」とコメントしている。
また、党内に大きな影響力を持つロンナ・マクダニエル共和党全国委員会(RNC)委員長までが、「もし、彼が今出馬表明した結果、わが党が11月中間選挙の上院選を落とすことになったとしても、彼は何ら責任を取りたがらないだろう。その場合は、党としても、彼の大統領選のために政治資金を振り向けることはできなくなる」と警告してきた。
共和党の次期大統領選候補としてはこれまで、トランプ氏のほか、ペンス前副大統領、ロン・デサンティス・フロリダ州知事、トム・コットン上院議員(アーカンソー州)、アサ・ハッチンソン・アーカンソー州知事、テッド・クルーズ上院議員(テキサス州)らの名前が取りざたされている。
この中で今年に入り、一躍脚光を浴び始めたのが、デサンティス氏であり、去る6月、コロラド州の共和党保守グループ組織の会合で実施された次期大統領候補〝人気投票〟では、デサンティス支持が71%となり、トランプ支持の67%を上回り、話題を集めた。たんなるその場限りの意志表明であり、それ自体に大きな意味を持つものではないが、同党保守派の間でさえも、トランプ氏の訴求力に陰りが見せ始めた兆候と受け止められている。
ただ、共和党支持層全体の動向を見る限り、共和党指名争いでトランプ支持が依然として、他の予想される候補を大きくリードしている。
New York Times/Siena College世論調査(7月5~7日実施)によると、トランプ支持(49%)がトップを占め、2位のデサンティス氏(25%)、3位のペンス氏(6%)に大差をつけているほか、Politico/Morning Consult(7月15~17日)調査でも、2位のデサンティス氏23%に対し、トランプ氏53%と首位の座はまったく変わっていない。
明暗を分けうる「司法の判断」
こうした中で最近、大きな話題となったのが、上院共和党のリーダー、ミッチ・マコーネル院内総務の発言だった。
マコーネル氏は、去る7月19日、院内での記者会見の中で、「次期大統領選で共和党候補として誰を支持するか」との質問に対し、「24年選挙では(トランプ氏以外にも)何人もがその機をうかがっており、予備選は混戦になるだろう」とだけ答え、具体的に誰を支援するかについての明言を避けた。
昨年2月当時の記者会見では「もし、トランプ氏が党指名候補になれば、確実に彼を支持する」と確答していただけに、今年に入り、〝変心〟したことを示唆している。