おカネを通じて人生を考えさせる
トラコの教育方法は極めて独特である。脚本家・遊川による毎回のタイトルからもうかがえる。第1話「1万円で幸せになる方法」、第2話「5千円の正しい使い方」、第3話「20万円の必勝投資術」、第4話「1万円。拾うのとあげるの、どっちが幸せ?」、第5話「子供のために4630万円残す方法」。
教え子やその母親たちに、おカネを媒介にして、人生を考えさせるのである。第2話「5千円」は、定食屋の息子・高志がいじめにあって、同級生たちからカネを要求される。彼は、母親が営む店のカネを盗んで、それを渡してしまう。トラコは、その同級生たちに立ち向かって、5千円を取り戻すようにしかりつける。
その5千円の使い道をトラコから、自分で考えるように言われて、バラの花束を母親に買って、カネを盗んだことを謝るのだった。母の智代(板谷)は、それを花瓶にいけて、店のカウンターに置いてうれしそうにする。
その後も、花瓶に花を入れ替えるようになる。母子には、心のつながりとゆとりが生まれるのだった。
第5話のラストシーンに至って、これまでの〝心温まる〟家庭教師像、受験生と母親の心をほぐすことによって、勉強のやる気をださせる理想の家庭教師には、偽りが隠されていることが暗示されていく。
遊川和彦ドラマの逆転に次ぐ逆転、予想外の展開の準備は整ったようだ。
トラコの相棒である、福田が尋ねる。
「今回は、どうしてそんなに急ぐんだ。なにかあるのか?」
トラコは、答える。
「あの時、8000万も使ってしまったからな」
場面は、銀座の宝飾店に移る。銀行家の上原家の妻・里美(鈴木)が買い物を終えて、歩道にでる。トラコは、あらかじめ仕込んだ少年に、里美のバックを奪わせる。少年は、わざとトラコの方に走ってきた。