2022年11月27日(日)

田部康喜のTV読本

2022年7月10日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 NHK総合・土曜ドラマ「空白を満たしなさい」(よる10時)は、平野啓一郎の同名小説の映像化である。3年前に死んだ土屋徹生(つちや・てつお、柄本佑)が、妻の千佳(ちか、鈴木安)と息子の瑠久(りく、斉藤拓弥)のもとに戻ってくる。

(Rastan/gettyimages)

 列島の各地で、徹生と同じように死から蘇った「復生者」が現れる。政府はそのための省をつくる事態となった。

 徹生(柄本)は、ビルの屋上から転落して死んだ。警察は自殺として処理した。徹生には、自分の死に至るまでになにがあったのか、思い出せない「空白」がある。

 ただ、自殺ではない、という確信めいたものはある。殺された可能性があり、それは会社のガードマンの佐伯(阿部サダヲ)ではないか、と考えている。

 「復生者」というありえない設定のなかで、進行するドラマはしだいに現実のようにみえてくる。高質のサスペンスである。夏シーズンのドラマの先陣を切る、傑作だと思う。

「生きることの陰影に富んだグラデーション」

 ドラマに引き込まれていくのは、原作者の平野啓一郎が寄せたコメントのなかに秘密がありそうだ。

 「生きることには、喜びと悲しみとが両方が備わっていて、その間には陰影に富んだグラデーションがあります。私自身は、生の孤独が極まってゆくような感覚の中で、何度となく文学に救われてきました。敢えて言えば、文学はそうした精神的な糧を求めている人たちにとっては、立派に『役に立つ』ものです。そしてそれは、私たちの感じている孤独が、決して孤独なものではなく、他者と共有可能なものであることを教えてくれます。これは、生きることの希望を取り戻すための物語です」

 製缶会社に勤めていた、徹生(柄本)はライバルによる中傷によって、会社のなかで孤立していた。「取引先からリベートをもらっていた」と噂を流されたのだった。昼食に食堂で、妻の千佳(鈴木杏)がつくった愛妻弁当を食べようとすると、皆が徹生のすわったテーブルを避ける。

 そうしたなかでも、ビールの製缶のプロジェクトを成功に導いた。徹生にとっては、自分が自殺したとは、到底考えられない。

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