2022年10月7日(金)

世界の記述

2022年9月12日

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宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

在欧ジャーナリスト。1976年生まれ。スペイン・バルセロナ大学大学院でジャーナリズム修士。『卵子探しています』(小学館)で小学館ノンフィクション大賞優秀賞。『安楽死を遂げるまで』(同)で講談社ノンフィクション賞を受賞。近著に『ルポ・外国人ぎらい』(PHP新書)がある。
 

 日本では、インフレどころかデフレが続き、安い商品や食べ物を求めることが普通になっていた。国内で生きる上では心地がいいが、景気はますます後退し、稼ぎが減り、気がつけば他国に太刀打ちできない状態になっていた。

 外国人観光客数で世界第2位の都市であるスペイン北東部バルセロナには、2010年頃までは、街中を歩けば、日本人の家族旅行者や大学生と頻繁にすれ違ったり、どの飲食店でも日本人を1人か2人は見かけたりしたものだった。だが、ここ数年、1日の合計で3〜4人見れば多いくらいの感覚だ。

世界中の観光客で賑わうバルセロナのランブラ通り。ここにも日本人の姿は少ない

 スペイン国立統計局(INE)によると、2000年には、日本人約78万人がスペインを訪れていたが、16年には、約58万人まで減少している。もはや、当時のように海外に行くことも、ブランド商品を探し求めることも、断念せざるを得ない状況に追い込まれたのだ。日本では、想像以上のガラパゴス化が進んでしまったと言える。

 筆者は、経済大国と称されていた日本が、欧米先進国とは周回遅れになっていく様子を海外の現場から眺めてきた。日本人が欧米人にどんどん追い越されていくような「悔しさ」も感じてきた。

 なぜ「悔しさ」なのかと言えば、「生きるために働く」スタイルを徹する欧米人の人生に対し、日本人はその真逆で、まるで「ハイワーク・ローリターン」の悪循環を繰り返しているように見えてならなかったからだ。 

諸外国が抱く物価と賃金の感覚

 ここからは、消費者の行動について、具体的な現象を探ってみることにしたい。バルセロナの町中で、欧米人やアジア人の旅行者に、過去20年間で何がどう大きく変化したのか尋ねてみた。 

 市内の目抜き通りを歩く韓国人のミンジュさん(22歳)は、母国で1年半、英語の家庭教師を務めて貯めた資金でパリに留学した。20年前の経済事情は知らないが、母国で働けばヨーロッパで暮らせるという自信を持っていた。

 「どこを歩いても韓国人だらけです。ブランドショップには必ずいて、いつも高級品を買っている。若い人たちは、マンネリ化を避けるために海外旅行に出かけます。外国語の問題を除けば、韓国人はすぐにでも外国に行きたいのだと思います」

 近年までバブルを経験してきた韓国だが、経済的な余裕があるか否かにかかわらず、若者は国外に出ることに生き甲斐を見出しているという。筆者も、この10年ほどで、日本人と韓国人の割合がバルセロナでは逆転したように思っている。

 市内の大聖堂広場で休憩中だった米ユタ州出身のジョー・ウォーカーさん(59歳)は、過去20年間で年収が約3倍になったと明かす。景気がいいエネルギー業界に勤務していることもあるだろうが、米国での生活は、10年前よりもずっと楽になっていると感じていた。

 「米国のインフレ現象は、この数年間で最悪だが、その分、私の場合は給料も大きく上がった。海外旅行も、以前よりも安く感じる。ホテルだけは米国よりもヨーロッパの方が高い印象があるが、レストランは同じくらいの価格。今の生活に不満はない」

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