2022年10月7日(金)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年9月20日

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渡辺好明 (わたなべ・よしあき)

新潟食料農業大学学長

1945年生まれ。68年3月、東京教育大学文学部卒業し、同年4月に農林省入省。水産庁長官、農林水産事務次官、内閣総理大臣補佐官、東京穀物商品取引所理事長などを歴任。2018年4月に新設された新潟食料農業大学で学長に就任した。全国農地保有合理化協会会長も務める。

 第二グループは、カロリー自給率は低いが、付加価値の高い農産物を他の地域に出荷し、生産額ベース自給率が高い(100%を超える)パターンである。

 長野(51%、129%)、和歌山(27、116)、島根(60、105)、徳島(41、118)、愛媛(34‐112)、高知(43、170)、長崎(38‐142)、熊本(55、163)、宮崎(61、301)、鹿児島(77、283)の各県がそれにあたる。どうであろうか、農地面積は小さいが、果樹、畜産で生産額が大きい。

 海外の例でいえば、カロリー自給率が61%、穀物自給率が11%のオランダは、農産物輸出額が約15兆円で世界第2位(2020年国連食糧農業機関(FAO))と日本の15倍にも及ぶ。

 どのタイプが農業の発展国なのか。従来のカロリーベースの自給率だけを見ていては、日本の農業としての評価を見誤る。また、「高付加価値で海外も含めた発信を」と生産額ベースに重きを置いては、食料の安定供給という食料安全保障を果たせなくなる。国情に応じた戦略と方向性を打ち出す必要がある。

 チョコレートでもあるまいに、「大きいことはいいことだ信仰」にとらわれるべきではない。

東京都の農業も実は立派なもの

 こうした視点は、「都市型農業」を考える上でも重要だ。大消費都市の東京では、需要に応えた特徴ある農産物を生産するが、穀類は極めて少ない。カロリーベースは有効数字が1%に満たないのでゼロ表示だが、逆に、生産額ベースの3%は立派なもので東京の農業は決してみじめなものではない。

 東京の総生産額は約240億円(2018年)で、野菜134億円、花き37億円、果物33億円といったところだ。立川のウド、豚肉のトウキョウX、コマツナなどは高い評価を受けている。

 カロリー源となるコメ、麦もわずかながら作られ、サツマイモ、バレイショは、それぞれ5億~6億円ほど生産されている。コマツナなどの生産農地で耕地利用率は高い。特徴があり、消費者に喜ばれる豊かな農業が営まれているのが実情だ。

 東京での農業の維持・継続は、巨大な人口を抱えた消費市場との距離の近さ、生産現場が見える、会話ができる、近隣のスーパーなどへ軽トラ1台で直販コーナーに新鮮な農産物を届けられる小回りのよさがある。また、「都市農業振興基本法」(2015年)にも記されているように、良好な都市環境の形成、食と農への住民理解の推進、災害時の防災空間としての農地の保全など多くの利点を持つ。

 都市農業に多面的機能を認める、支援する動きは、東京都にとどまらず、横浜、川崎、横須賀なども含む首都圏、名古屋圏、大阪圏にも共通する。さらに、都市地域における農業生産の維持・継続と農地の保全を後押ししているのが「生産緑地制度」である。農業生産の継続を前提として固定資産税、相続税を減免するこの制度は、「所有者、相続者本人による営農継続」が条件であったが、1992年の改正により、「貸付方式も認める」とされた。

 農地の有効利用と担い手育成を図る「東京都農業会議」の努力もあって、この30年間に約200件の貸付方式での営農の継続がなされたといわれ、また、100人近い新規就農者たちは、「東京ネオファーマーズ(NEO‐FARMERS)」として、例えばスーパーに常設販売コーナー設置するなど、種々の活動に取り組んでいる。なお、2022年の期限到来で生産緑地の大幅減少が懸念されたが、宅地化による農地の減少は3%程度に踏みとどまっているという(トレンドでは毎年▲1~2%)。

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