2024年11月22日(金)

教養としての中東情勢

2022年9月25日

 今回の騒乱が拡大した背景には、公の場でのヘジャブ着用など革命以来の宗教的な規制に国民がウンザリしていること、米国による制裁で経済が悪化、インフレ、失業、通貨リアルの下落などの生活苦にあえいでいること、その一方で革命防衛隊など体制側の腐敗が横行している実態に国民の怒りが鬱屈していたことなどがある。そんな日頃の不満が事件に直結し、一気に拡大した。

 イランでのこうした反政府行動は2019年にも発生した。この時はガス代の値上げをきっかけに貧困層らを中心とした抗議デモが全国に拡大、300人を超える死者が出た。しかし今回はあらゆる階層や考え方の違う人々が抗議の声を上げていることが決定的に違う。著名な元サッカー選手や俳優なども抗議に賛同するなど広がりの奥深さが特徴だろう。

ハメネイ師の後継候補は2人

 ライシ政権やハメネイ師周辺が抗議行動の早期鎮静化に躍起になっているのは公言しにくい重大な理由があるためだ。それはハメネイ師の体調が深刻な状況にあると見られることだ。

 イランからの報道などによると、ハメネイ師(83歳)は今月前半、シーア派の聖地マシャドを訪問した後に体調が悪化、自宅で大腸関連の手術を受けたという。現在は回復傾向にあるものの、一時は深刻な状態だったとされる。このため予定されていた重要会議に欠席した。同師は2014年にもがんの手術をしており、元々体調は万全ではない。

 ハメネイ師はイスラム聖職者が国を統治するというイラン独特の「ベラヤティファギ」論の下、史上2番目の最高指導者として30年も君臨してきた。最高指導者の去就は国を左右する重大事だ。イランの指導層はハメネイ師が死去する事態になれば、その混乱をきっかけに現在の反政府抗議行動がイスラム体制転覆運動に転換しかねないと恐れている。

 そうした指導層の懸念とは別に、国内ではすでに水面下で、ハメネイ師の後継者争いが激化しているというのが大方の見方だ。後継者として取り沙汰されている有力候補は2人。1人は大統領であるライシ師。もう1人はハメネイ師の次男のモジタバ・ハメネイ師で、最高指導者事務所を事実上取り仕切っている人物だ。

 両者ともハメネイ師の路線を引き継ぐ反米、反イスラエルの保守強硬派。憲法の規定によると、最高指導者の候補者は政治的な役割の経験者であることが要件として規定されている上、世襲はシーア派の教義に反するという解釈が多く、ライシ大統領が後継者争いを一歩リードしているように見える。

 最高指導者は88人の聖職者で構成される「専門家会議」で選ばれるが、ハメネイ師が死去の前に息子のモジタバ師を後継者に指名する可能性もあり、波乱含みであることは間違いない。だが、最高指導者として始動するためには強力なバックアップが不可欠で、その最大の支援勢力は革命防衛隊だ。「結局のところ、後継者選びのキングメーカーは革命防衛隊と言っていい」(専門家)。


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