吉野の山里、丹生(にう)川を望む場所にある古社、丹生川上神社下社。境内奥の拝殿から、丹生山の山頂にある本殿まで屋根つきの階段が続く珍しい建築様式で知られる。
丹生川上神社は天武天皇の時代、白鳳年間の創建と伝わり、平安時代以降は京都の貴船神社とともに国の水神の祭礼をつかさどってきた。それが室町時代の応仁の乱で奉幣が途絶え、その名は歴史から姿を消し、所在不明となる。江戸時代以降、下社、そして川上村の上社、東吉野村の中社の3社が、丹生川上神社に比定され、今に至っている。
六国史の一つ、『続日本紀(しょくにほんぎ)』には、祈雨、祈晴(止雨)の臨時祭に馬を奉納したとの記録が残っており、雨乞いには黒馬が、晴れ乞いには白馬が献上されていた。丹生川上神社下社は、毎年6月1日が例祭で、昨年は文献に残る最後の記録から562年ぶりに白馬献上を挙行した。
「かつて馬は大変高価で、神に奉るには最高のものでした。なぜ白黒の馬なのかは不明ですが、黒馬は黒い雲を、白馬は白い雲をイメージしてのことではないかと思われます。また、水の神に馬を奉ることは絵馬の起源といわれています」と、宮司の皆見(みなみ)元久さん。
例祭は、お祓(はら)いに始まり、本殿へのお供えの献上、祝詞(のりと)奏上などの儀式が約1時間にわたって執り行われる。山頂の本殿の扉を開くときに唱える警蹕(けいひつ)の声が境内に響き渡り、開扉の音が聞こえると、神が階段を下りてくるような厳かな雰囲気に包まれるという。本殿へと続く階段は通常は閉ざされているが、年に1度、例祭の儀式終了後のみ開放、本殿に直接参拝できる。
「当社の境内は何もないのが特徴です。日本人は言葉よりも、感じたり、察することを大切にしますので、何もない方が楽しめる場合があります。1年中吹く清らかな 丹生の風 を感じていただきたいですね」
昨年の白馬献上は一昨年の東日本大震災と台風12号の被害からの復興祈願が込められたものだった。復興途上の現状から、馬を境内で飼い、今後も白馬献上の儀式はしばらく続けられる。
丹生川上神社下社例祭
<開催日>2013年6月1日
<会場>奈良県下市町・丹生川上神社下社(近鉄吉野線下市口駅からバス)
<問>丹生川上神社下社☎0747(58)0823
http://www.town.shimoichi.nara.jp/sightseeing/temple/nyukawakami.html
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