OPECプラスの最大の生産国であるサウジアラビアが減産に反対すれば、200万B/Dの大幅減産が避けられた可能性は高い。バイデン大統領にすれば、ガソリン価格の高騰が11月の中間選挙に悪影響を及ぼすのを恐れて、7月にわざわざサウジアラビアに赴き、カショギ記者殺害事件の首謀者として「のけ者」とまで嫌っていたムハンマド・サウジアラビア皇太子に原油の増産を要請したにもかかわらず、10万B/Dの雀の涙ほどの増産しか約束してもらえなかったが、いきなり200万B/Dも減産されては憤懣(ふんまん)やる方ないであろう。
米・サウジの関係が悪化した2つの要因
最近の米国・サウジアラビア関係の緊張・悪化は、かつて「石油は血より濃い」と言われた米国とサウジアラビアの蜜月関係を想起すると驚きだ。この米国・サウジアラビア関係の悪化は、本質的には米国がシェール革命により世界最大の産油国となり、サウジアラビアに依存する必要が無くなったことである。
次に指摘したいのは、米国が台頭する中国の軍事力に対抗するために全世界的に米軍の再配置を進めていることである。昨年の米軍のアフガニスタン撤退に象徴されるように、米軍は中東からも再配置を進めている。その結果、イランの覇権主義に脅威を感じ、これまで安全保障を米国に依存していたペルシャ湾のアラブ産油国は自国の安全保障を如何にして守るか途方に暮れている。
自国の都合で一方的に撤退する米国に対して湾岸産油国が怒りを覚えて、嫌がらせをしようとしてもおかしくない。そして、サウジアラビアのムハンマド皇太子の個人的な危うさである。やはり、バイデン大統領が繰り返し同皇太子を非難し続けたことを根に持っているのであろう。
最後にバイデン政権は、サウジアラビアとの関係の見直しを示唆しているが、大したことはできないと思われる。例えば、サウジアラビアにとり一番痛いのは、武器の供給を絞られることだが、ホーシー派の弾道ミサイルとドローンの脅威にさらされているサウジアラビアに対空ミサイルの供給を止める訳にはいかない。サウジアラビアの油田が破壊され、原油の供給が止まれば世界経済に及ぼすダメージは計り知れない。