「もし、現在のエネルギー・気候変動政策が継続されるのであれば、エネルギーコストを上昇させ、世界の競合相手とのエネルギー価格差を不合理に拡大することになる。欧州委員会は30年のエネルギー・気候変動政策の枠組み議論では競争力と気候変動問題のバランスに強い焦点を当てるべきだ。さらに、内外のエネルギー価格を考慮した気候変動政策、欧州でのシェールガスの開発とエネルギー効率改善分野での技術開発、投資を支援する政策が必要だ。変革の時とビジネスヨーロッパは信じる。高いエネルギー価格に挑戦し解決する戦略が必要との強いシグナルを政府首脳は送ってほしい」。
欧州産業界は、シェールガス革命による米国のエネルギーコスト低下、欧州での再エネコスト負担により米国とのエネルギーコストの差が拡大することに大きな危機感を持っている。その米国はシェールガス革命を利用した製造業の拡大に注力している。
雇用と製造業復活を狙う米国
2月12日に行われた一般教書演説でオバマ大統領は中間層の拡充を打ち出したが、その具体策はシェールガス革命によるエネルギーコスト低下を利用した製造業復活によるものだ。米国は雇用と製造業を引き付ける磁石になり、世界が買う商品を作りだすとホワイトハウスの声明は述べ、10年に亘り減少してきた米国製造業の雇用は過去3年間で50万人増加し、リーマンショック以降、製造業の出荷は過去10年間を上回る速さで増加しているとしている。
この米国の製造業復活を支えているのはシェールガス革命だ。電力業界で消費される天然ガス価格は、08年には1000立法フィート当たり9.26ドルだったが、12年には3.52ドルまで下落している。この間欧州の産業向け天然ガス価格は上昇している。08年前半に1kwh当たり5.31ユーロセントだったドイツのガス価格は12年後半には5.79に、自国での生産がある英国でも3.27から3.89に上昇している。発熱量の単位を統一すると12年の米国の天然ガス価格は、ドイツの6分の1以下、英国の4分の1以下だ。
産業向けの電力料金は、全米平均で08年1kWh当たり6.83セントだったが、12年には6.7セントに下落している。一方、ドイツの年間使用量50万kWhから200万kWhまでの産業向け電気料金は08年前半に21.48ユーロセントだったが、12年後半には26.76セントに、また英国の産業向け電気料金は08年前半に14.58ユーロセントだったが、12年後半には17.85セントに上昇している。欧米の料金格差は拡大する一方だ。
価格競争力のあるシェールガスにより、天然ガス価格も電気料金も米国では下落している。しかし、欧州では天然ガス価格も電気料金も上昇している。ビジネスヨーロッパが危機感を持つのは無理もない。シェールガスの恩恵はエネルギーコストだけではない。