彼は事件の被害者に思いが至った瞬間に「こんなことしている場合じゃない」といてもたってもいられない気持ちになって「被害者に手紙を出させてほしい」とS教官に嘆願した。しかし、現実にはそれが受け入れられない状況にあるため手紙は出せなかった。
その後、「なぜ自分は非行に走ったのか」「なぜそんな重大な事件を犯してしまったのか」を考えるようになって、「なぜ?」を追求するように変わっていった。知的好奇心が目覚めたのはこの頃からだ。これが高卒認定試験取得への勉強意欲に繋がっていった。
さらに、同時期に生活態度にも変化が訪れた。それは自分から周囲に関わるようになったことである。ただ、自分の思いをどう表現してよいかわからず、相手に上手く伝えることができない。自信がないので、ぼそぼそと小さい声でしか話せなかった。そこで彼は、自分が伝えたい内容をしっかり学習ノートにまとめてから話すようになり、話し方は周りの子たちに学びながら身につけていった。
「今ではグループディスカッションをしても先頭を切って意見を言うようになっています。成長の証しは、目先の事ではなく、将来のことを考えて今を大事に過ごすようになったことです。考える力と学ぶ姿勢を身につけたことが大きな成長の証しだと思っています」
ただ、B少年が戻ってしまう要素があるとするなら、それは家庭だとS教官は言う。
「家族が崩壊してしまったら、安心していられる場所を失いますので戻る可能性はあるとは思います。でも今の彼の覚悟とか、生き方を見ていると大丈夫かなとも思います。今ではお互いが歩み寄って、お母さんも彼の話を聞くように変わりましたので、良い関係になってきています。家族に苦しんだから、彼には良い家庭を作ってほしいと思っています」
自分をコントロールできるようになった
緊張している様子がありありと表れていたが、B少年は一語一語丁寧に言葉を発しようと心がけているようだった。私に何を聞かれるのかわからないため、学習ノートにあらかじめまとめておくこともできなかったに違いない。さぞかし不安だったことだろう。
彼には自身の変化について、そして水府学院で学んだ一番大きなものは何かと聞いた。
「ここに入って一番変わったことは自分をコントロールできるようになったことです。以前は我慢することが出来なくて、犯罪も欲のままに行っていました。ここに来てからも我慢し切れなくて、最初の頃は顔にも出ていたと思います。それが今では感情を抑えられるようになりました。更生して、社会復帰するためには自分をコントロールすることが大事だと思っています」