2024年12月10日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年11月28日

 2022年の米国の中間選挙では、「赤い津波」(上下両院とも共和党が過半数を取ること)は起こらず、民主党が大健闘をした。上院は民主党が過半数を制し、下院は共和党が過半数を占めたが、その差は予想よりも僅差となった。その結果、一番の敗者は共和党のトランプ前大統領であるとの論評が多くなった。

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 この点、両党の戦略の違いが明暗を分けたと言えよう。下院で共和党が多数党となると議会は混迷するが、結局のところ、政策自体は大きく変わることはないだろう。

 さまざまな点で画期的な中間選挙だった。支持率の低いバイデン大統領がインフレのさなか下院で大量の議席を失わず、民主党知事を増やし、州議会でも議席を増やした。両党の戦略が明暗を分けたといえる。

 民主党は、①最高裁が中絶容認を覆す判決を出してから中絶を重要課題として前面に打ち出し、②共和党の一部予備選でMAGA(Make America Great Again:米国を再び強くする)候補を支援することで本選を戦いやすくし、③共和党を危険な極右のMAGA党と色付けし、共和党が民主主義を危うくしていると強調した。超党派を信条とするバイデン大統領だが、選挙前2~3週間は、共和党は極右のMAGA党と説いて回った。

 一方、共和党は、①トランプ前大統領とMAGA派に主導権を許し、思想も発言も常識をはずれた問題候補の擁立を許し、②「選挙否定」(2020 年大統領選挙には不正があったとバイデン氏を大統領と認めない)に熱を入れすぎ、③伝統的保守派とMAGA派の党内分裂により戦略も選挙資金もまとめられなかった。

 こうした戦略が、次のような結果を招いたと思われる。(数字はいずれも出口調査)

1)本来現職大統領の評価のはずの中間選挙が、トランプ前大統領と共和党への評価を問うものとなった。

2)インフレや経済を最重要課題とすると共和党に有利で、中絶が最優先課題であれば民主党が有利となり、中絶を最優先とした投票者が多かった。一番の関心事はインフレとした投票者は31%だったが、中絶が27%と次いで高かった。中絶への高い関心が特に激戦州の結果に影響し、ペンシルベニア州上院議員選挙では、女性の57%が民主党候補に投票した。30歳以下の女性は、70%以上が民主党に投票した。

3)トランプ氏が推薦した注目MAGA候補は本選ではほとんど勝てなかった。その中には、ペンシルベニア州上院、同州知事、ミシガン州知事、ネバダ州上院など激戦区の候補がいる。

4)民主党は激戦州で必要な票を得られた。例えばペンシルベニア州の上院や知事選では29歳以下の若者の多くが民主党候補に投票した。中絶、温暖化、銃規制、LGBTQといった若者の関心が高い問題が背景にある。

 中間選挙を終えたバイデン政権の政策はどうなるのか。


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