11月10日付けウォールストリート・ジャーナルは、イムラン・カーン前首相の政権復帰を狙う言動によってパキスタンは更なる不安定な状況に陥る崖っぷちに立たされていると警告する、サダナン・デューム(インド系米国人ジャーナリスト)による論説‘Imran Khan Pushes Pakistan to the Edge’を掲載している。要旨は次の通り。
4月に議会により解任されたイムラン・カーンの熱烈な支持者たちは、彼が軍と引き続き対決することによって政権に復帰出来ること、彼が腐敗と失政をなくしてパキスタンを浄化することを希望している。しかし、カーンの慢心と瀬戸際政策好みはむしろ既に騒然としているパキスタンを混乱に陥れることになりかねない。どちらにせよ、米国とその同盟国は核兵器国であるパキスタンの不安定性に備えるべきである。
最新の発火点となったのはカーン暗殺未遂事件だ。当局は宗教の狂信者を容疑者として直ちに逮捕したと言っているが、カーンは事件の背後にシャリフ首相、サヌラー内相、ISI(軍統合情報局)のナシール(少将)がいると非難している。
カーンの軍高官に対する攻撃は「復讐を示唆するものであり文民・軍関係の主要な違反を意味する」とカーネギー国際平和財団のパキスタンの専門家Aqil Shahは言う。カーンの軍との長年の友好関係および軍がパキスタンの政府で演ずる中心的な役割に照らせば、これは驚くべきことである。「パキスタンは軍を有する国ではなく国を有する軍である」との旧い格言があるが、今やパキスタンは、かつては軍の傀儡と見られていた一人の政治家によって脅かされている。
カーン銃撃に怒った支持者達はラホールとラワルピンディで交通を遮断し警察と衝突した。ペシャワールでは地域の担当の将軍の防備を施した住居の外に怒った暴徒が集結した。11月10日には、カーンの政党であるパキスタン正義運動は負傷したカーン抜きでイスラマバードに向けて行進を再開した。
パキスタンの軍の行動には国際的に有害な過去の実績が種々ある一方、機能不全の同国における最も機能する組織としての評価を得ている。軍をパキスタンの国としての一体性を保つ接着剤と見做す研究者もある。軍が崩壊すれば、パキスタンも同時に崩壊するかも知れない。
カーンによるあからさまな攻撃の前に、軍に良好なオプションはほとんど残されていない。ISIで国内政治を担当する少将ナシ―ルを解雇あるいは更迭すれば、弱みを見せることになる。しかし、行動しなければ、パキスタンで最も人気があるとも言い得る政治家との衝突に向かう。どちらにしても、普通のパキスタン人は更なる不安定に直面することとなろう。
* * * * * *
今年4月、議会における不信任投票の結果、イムラン・カーンは首相の座を追われたが、彼は米国主導の陰謀の犠牲になったと主張し、静かに消え去るつもりのないことを示唆していた。以来、彼はシャリフに早期に選挙を行わせ(現行の議会の任期切れは来年8月である)、政権に復帰することを狙い、彼のパキスタン正義運動が議会をボイコットする一方で、街頭に出て現状に怒りを募らせる大衆を糾合してシャリフ政権に圧力をかける示威行動を行って来た。彼を支持する大衆の抗議の行進はパンジャブ州を通って近くイスラマバードに入り座り込みを行うらしいが、治安当局との衝突が政治的な騒擾を引き起こす可能性もあるであろう。