パキスタンは激しいインフレと対外債務の重圧による経済危機にあるが、それがシャリフと彼の「一味の悪党」の責任とは言い得まい。カーンには国際通貨基金(IMF)による支援パッケージを不用意な補助金の導入で一時中断させた前科がある。
この夏の未曽有の洪水被害にカーンなら巧みに対処し得たとも到底言い得まい。苦難の時に新たな政治危機は不要というべきであろう。
今後の鍵を握る軍とカーンの関係
今後の情勢の展開は分からないが、上記の論説はパキスタンの政治において隠然たる影響力を有する軍とカーンとの関係が鍵と見て焦点を当てている。カーンが軍に対してシャリフに圧力をかけて早期に選挙を行わせるよう要求して来たことはこの論説に言及がある。
カーンは陸軍参謀長カマル・ジャビド・バジュワが11月29日に退任する前に彼から早期の選挙について何等かの言質を取り付けることを狙っているとの説もある。従って、パンジャブ州を通って首都に向かう抗議の行進はバジュワの退任前にイスラマバードに入ることになっている。他方で、パンジャブ州ワジラバッドで起きた彼に対する銃撃の一件で、彼は軍と鋭く対立するに至っている。
軍は政治におけるその役割について、誰であれこれをあけすけに語ることを忌避し禁じて来たが、カーンの言動はこのタブーを破るものである。カーンは軍を含めエスタブリッシュメント(シャリフ家とブットー家)に対する大衆の反感を煽り、もって抗議運動を終わらせるために軍が彼の政権復帰を助けるよう動くことを狙っているのであろうが、これが大きなリスクを孕んだギャンブルであることは論を俟たないであろう。