また、臨海地域に立地する企業等は今後、それなりの利益を得ることが見込まれる。利益の一部は、地域に公共が投資した経費として負担するべきである。いわゆる開発利益の受益者負担であり、東京は約100年にわたってこれを採用してきた。
後藤新平が1920年東京市長就任時、元コロンビア大学教授のチャールズ・A・ビーアドを米国から呼んだ時も受益者負担についてビーアドの賛同を得ている。それから40年以上を経て東京都が英国から元ロンドン大学教授のウィリアム・ロブソンを招聘し助言を受けたときも同様である。
ビーアドは、受益者負担制を下水道敷設、地下鉄建設および隣接財産の所有者に利益を与えるような全ての都市改良事業に拡張すべきと提案している。特に固定資産税での回収を重視すべきと提案している。
ロブソンは都市計画一般の財源について土地の期待開発価値の上昇による資産増加分に厳しく課税し、この増収分で住宅、公園など公共用地収得に当てるべきと提言している。
近年における受益者負担の典型的な例としては東京メトロ日比谷線の虎ノ門ヒルズ駅新設が挙げられる。経費のかなりの部分を周辺の開発事業者が負担した。
虎ノ門ヒルズの森タワー自体が、立体道路制度を利用して都道である環状2号線道路の上部空間を利用した公共と民間が連携した再開発プロジョクトである。臨海地下鉄についてもこの種の受益者負担の工夫が期待される。
都は基盤整備に徹して都市開発は民間に
都は臨海地域では苦い歴史をもっている。1980年代後半に東京都ウォーターフロント再開発第一号として95年開業のホテルインターコンチネンタル東京ベイが入居したビル等数棟のビルを建設した。続いて臨海部にテレコムセンタービル、台場フロンティアビル等数棟のビルを建設した。
これらのビルをかかえる東京テレポートセンター、東京臨海副都心建設、竹芝地域開発の3社は2006年、約3500億円の負債を圧縮するため民事再生法による手続きを申請し適用を受けた。
これに先立って都庁内では激しい論議の末、2000年頃から都有地活用方針として基本的に民間へ開発を委ね、都は土地を定期借地に出すことにした。今日ではこの手法は確立している。
そもそも都は1980年代には臨海地域をテレポート(高度な情報通信基地)として位置づけ、オフィスを中心とした副都心にしようとする時代があった。現在でもテレポートセンターは東京テレポートセンターやりんかい線の駅名として残っている。
しかし実際には、スポーツ、商業、各種エンターティメント等が立地して発展してきた経緯があり、都が当初意図したコンセプトとはかなり異なったまちとなっている。もちろんこれは必ずしも都だけの責任ではなく、バブル時代に東京でオフィス床の絶対的不足が強調されていたためでもある。
元来、公共部門にデペロッパー的な役割は期待されていないし向いていない。自治体の組織目的は公共の利益である。都は基盤整備に徹して、具体的な都市開発事業は民間に任せるべきである。
東京と言えば、五輪やコロナばかりがクローズアップされるが、問題はそれだけではない。一極集中が今後も加速する中、高齢化と建物の老朽化という危機に直面するだけでなく、格差が広がる東京23区の持続可能性にも黄信号が灯り始めている。「東京問題」は静かに、しかし、確実に深刻化している。打開策はあるのか─―。
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