2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2022年12月19日

矢沢 もちろん、スペインでも監督には最終的な判断を下す権限があり、選手たちは敬意を示している。ただ、しっかり状況や要望を伝えなければ監督は決められない。

鈴木 お互いのリスペクトの中で選手の声が反映されて、チームがより良くなっていくのが理想。ジーコ氏は「主役は選手たちで、より良いパフォーマンスの為の環境を整えるのが自分の仕事」と言っていた。

 実際の試合ではピッチ全体が見える数カ所にスタッフを置き、ハーフタイム突入と同時に彼らの報告を約5分間でまとめ、後半への指示を簡潔に伝える。内容は余程のことがない限り戦術的なことより、メンタル的なことが多かった。なぜなら戦術のポイントは練習の中でほとんどクリアにしていたからだ。

「それぞれが技術も気持ちも上げなければ勝てない」

――W杯という短期決戦の中で、監督と選手が一体感を持ち、世界と戦うことができた要因は何か。

矢沢 日本サッカー協会が「W杯ベスト8」を目標に掲げ、監督も選手もスタッフもそれを信じてコミットできたことだと思う。これは、代表の半分以上の選手が海外のトップリーグでプレーしていて、相手チームの主力選手とチームメイトもしくは対戦するのが日常になったことも大きい。「自分たちは戦える」という気持ちを持てたのだと思う。

鈴木 これは、少し前までだったら、信じられないこと。ブラジル代表としてW杯優勝を果たし、インテル・ミラノの監督も務めたレオナルド氏と個人的に交流があるのだが、彼は昔から「ヒデ(中田英寿氏)はすごい選手」と言っていた。外国人選手にも劣らないフィジカルと強い精神力。いまだに彼を超える選手はいないと思う。

 ただ、そんな中田選手がいても、ドイツ大会では予選リーグで敗退した。もちろん、中田選手はチームを引っ張っていってくれていたが、チーム全体としてポジティブな成果を上げるには至らなかった。やはり、チームスポーツは1人ではできず、それぞれの選手が技術も気持ちも上がっていかなければ勝てない。

矢沢 私は中田選手が現役時代、バックパッカーとして世界各国を旅していたが、日本人だということを伝えると、ヨーロッパの人は「ナカタ!」と話しかけてくれた。7年前にスペインに行った時も「日本人=ナカタ」のイメージは変わっていなかった。彼を超える日本人選手はまだいないのかもしれないが、それでも日本代表が強くなっているのは事実だろう。

鈴木 W杯に向けてチームを完成させるという部分では、メンバー選考でジーコ氏は悩んでいた。例えば当時、ディフェンダーに田中誠という選手がいたのだが、口数は少ないものの求心力があった。まわりの選手たちにも慕われ、事あるごとにコミュニケーションをとっていた。しかし、大会前に肉離れになってしまい、離脱してしまった。空いた穴は相当大きかったと感じる。

矢沢 実力順で選手を選べれば簡単だろうが、そうはいかない。スペインでは、2010年の南アフリカ大会で優勝した時のメンバー選考が今でも語られている。

 第3ゴールキーパーのホセ・マヌエル・レイナ選手が毎回欠かさず選ばれていた。第3ゴールキーパーなので、出場機会はほとんどないのだが、レイナ選手は明るい性格で、チームに笑いを提供して盛り上げ役を演じることができた。スペインはあの大会の初戦で敗れたのだが、その後、盛り返して頂点まで行ったのは、レイナ選手の力であると今でも言われている。

鈴木 日本代表で言うと、長友佑都選手のような人がいてくれると、あらゆる局面で助けられる。特にW杯は、ピッチ上だけでなく、ベンチ同士も火花が散らされる。ドイツ大会では、ピッチ側から指示を伝えようとしたスタッフが、相手ベンチと小競り合いが起こった。

 あらゆるところで戦いがなされているからこそ、チームを盛り上げる存在、笑いを与えてくれることがチームを助けてくれる。


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