2024年4月20日(土)

バイデンのアメリカ

2022年12月19日

 内政でも、富裕層向け大幅減税を実現させた以外、誇れる実績はなく、むしろ、コロナ感染対策の遅滞、人種間の対立深刻化、環境保護政策の後退、貧富格差の拡大など、マイナス評価面がめだった。

 最も深刻な事態を招いたのは、民主主義の根幹を踏みにじる過激な言動だった。

 再選をめざすも敗退が判明した2020大統領選挙の結果について、今日に至るまで否認し続けているのは、その最たるものであり、米国政治史上最悪となった「連邦議事堂乱入・占拠事件」に関しても、教唆・扇動の容疑で米議会特別調査委員会の調査対象とされるなど、かつてない国論分断に拍車をかけた。

 個人としても、脱税・不正税申告、セックス・スキャンダルをめぐる幾多の刑事捜査の対象とされ、今なお醜聞は絶えない。まさにレーガン元大統領とは両極端に位置した。

中間選挙で見せた「トランプの敗退」

 このような状況下で行われたのが、去る11月中間選挙だった。

 結果は、共和党を失望させるものだった。本来なら、中間選挙は時の政権の実績が厳しく問われ、野党が勢力を大きく挽回できる絶交の機会となるはずだったが、ふたを開けてみると、下院で伸び悩み、上院では逆に、民主党が議席を増やした。州レベルでも同様に、同党にとって期待外れに終わった。

 共和党内では今、選挙結果について、責任追及論議が続いているが、その矛先のほとんどがトランプ氏に向けられている。党本部の事前承諾も得ないまま、自己本位で各選挙区の候補を選定、推薦したものの、重要州で相次ぎ敗退の失態を招いたからだった。

 その中でも、「トランプ時代の終わり」を告げる象徴的な出来事とされるのが、重要州アリゾナ州における選挙結果だった。とくに同州の州知事選挙は、全米の注目を一手に集めた。

 トランプ氏は、地元TV局キャスターで極右的思想を信条とするお気に入りの女性候補を自ら担ぎ出し、遊説先にも応援に駆けつけるなど、並々ならぬ力の入れようだった。ところが、民主党候補への追撃も及ばず、あえなく敗退した。

 同州選出上院議員選挙においても、トランプ氏の推薦した過激思想の白人候補が大差で敗れた。

 2024年大統領選を占う一つのカギとみられていた州知事および上院選において、トランプ支持候補がいずれも落選した結果を踏まえ、伝統ある同州最有力紙「Arizona Republic」は早速、「トランプ主義は終わった」とする以下のような社説を掲げた:

 「トランプが唱導してきた『再び偉大な米国をMake America Great Again =MAGA』運動は、21年1月6日の連邦議事堂乱入・占拠事件を引き起こし、(バイデン次期大統領への)平和的政権移行を拒否した時点で完全に破綻した。さらには、去る11月中間選挙によって、国民は、政治的極端主義extreme politics への共和党の偏向が終わりを告げたことを知らされた」

 「同事件以来、最初の選挙となった中間選挙では、共和党はその代価を支払わされる結果となった。有権者は、野党共和党が本来議席を増やすべきであったにもかかわらず、そのチャンスに背を向け、トランプに対しても、今回含め選挙で3連敗の汚名をかぶせた」

 「その最たる例が、わが州における州知事選挙結果だった。トランプは、熱烈なMAGA信奉者のカリ・レークを候補にかつぎだしたが、賢明にも有権者は、20年大統領選の『選挙否認主義election denialism』を知事選の主要争点としてアピールしようとした候補を投票所で退けた。レーク候補のポピュリズムに嫌気がさし、米国民主主主義こそが人民そして世界との関係の根幹をなすことを正しく理解したのである」

 「米国民は、トランプ政権が1期だけで幕を閉じた時点で、彼がもたらしたカオスからの決別を意識し始め、先の中間選挙においては、トランプとは距離を置いたフロリダ、ジョージア両州の共和党候補がいずれも再選される一方、ニューヨーク、パンシルバニア、ミシガン、アリゾナにおいてはトランプ支持候補を断罪に処した……このことはすなわち、極端主義のトランプ時代の終焉を告げるものであり、今や多くの国民が、よりノーマルな政治を渇望していることを示している」

 これと前後して、同様の論調が、「Wall Street Journal」、「New York Post」両紙、「National Review」など、いずれも保守系メディアで相次いで掲載されたことについては、すでに本欄でも紹介した。(『「トランプ時代の終わり」を告げた米中間選挙』


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