2024年6月17日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年2月21日

Tatiana Terekhina/Gettyimages

 英エコノミスト誌1月28日号は「反汚職でベトナム大統領辞任」との解説記事を掲げ、コロナを巡る汚職摘発の動きを説明、反汚職キャンペーンはそれなりに成功しているが、役人の責任回避で経済に悪影響を与えつつあると論じている。要旨は以下の通り。

 ベトナム政府は、コロナ禍の国境閉鎖で海外に取り残されたベトナム人のチャーター機による帰還に関する大使館員の汚職を巡り、役人逮捕を始め、複数大臣を含む数十人を起訴。1月17日にはフック国家主席が責任を取り辞職した。

 ベトナムで汚職は珍しくないが、国家主席辞任は稀だ。フック氏の辞職は、最高指導者チョン共産党書記長の10年に渡る看板政策の「反汚職」が大きく進んだことを示している。習近平と同様、チョンは自身と共産党への権力集中のため汚職撲滅を使ってきた。解任された高官のほとんどが政府で昇進してきた者で、結果、党は政府に対しますます優勢になった。

 取り締まりは改革努力の一環でもある。78歳のチョン書記長は5年任期の三期目で、対米戦争を成人で経験した最後の世代だ。90年代の市場経済導入以降広がった汚職を追放したいと考えている。

 コロナ禍での汚職は挑発的なことだ。2021年12月に医療機器会社CEOが自社のコロナ検査機器購入の為の贈賄容疑で起訴され、保健大臣、科学技術大臣を含む役人が共謀の疑いで逮捕。大使館職員は帰国便便宜で処罰され、4月には副外相逮捕。1月5日には副首相2人失職。うち一人は将来の首相候補の外務大臣だ。

 反汚職キャンペーンは、それなりに成功してきた。汚職ランキングでベトナムは世界111位から87位に改善した。

 しかし、いくつかの逮捕には政治的意図の影がある。著名な環境活動家カーン女史は受賞金脱税容疑で昨年6月に懲役2年となっている。

 経済に複雑な影響もある。賄賂を取れない腐敗官僚は投資プロジェクト実施に無関心となり、汚職を嫌う実直な官僚はプロジェクトの認可さえしない。結果、資本投資の支出割合は2011~14年の70%から2019年に50%に低下。コロナ後反転したものの、昨年は58%に低下した。

 官僚はあらゆる形の関与を恐れている。徴税も停滞し、高速道路や地下鉄などの重要インフラプロジェクトも遅延している。

 これは短期的にはベトナムの成長に危険というわけではない。成長率は2022年推定7.5%、2023年予測は6%だ。欧米が中国からデカップリングする中、製造業のベトナム移転は増大している。チョン書記長は2030年の中所得国入りを希望するが、その実現には実直な官僚が逮捕を恐れずプロジェクトを認可できるようになるべきだ。

*   *   *

 現職国家主席の辞職という稀有な事態にまで至ったベトナムにおける、コロナ関係汚職を巡る状況を解説する重要な記事だ。日本にとって政治・経済・安全保障の全ての側面でますます重要度を高めるベトナムにおける重要事態である。

 同じ共産主義体制の中国における習近平による汚職掃討は明確な政治的背景を持つ。すなわち習近平のライバル追い落としを実現する一石二鳥の措置との側面が強い。

 その点、ベトナムでは、チョン党書記長が78歳で、健康に不安を抱えていることもあり、少なくとも、彼自身の「政治的野心」を疑う向きは少ないという違いがある。これまでの動きに対してはベトナム国内で大きな反発はなく粛々と進んでいるが、これは汚職対策自体に対するベトナム国民の根強い支持を示している。


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