2024年4月30日(火)

Wedge REPORT

2013年7月3日

上・救出時の状況を涙ながらに話す辛坊さん(右)とヒロさん(中)。左は比企さん
下・辛坊さんの手には海自岩国基地第71航空隊のワッペンがあった

 「訓練でもこんな海でレスキュー活動をしたことがないとおっしゃっていました。本当に命がけだったと思います。助けていただいたあとにお名前を教えていただきたいと言ったら、チームでやってるから教えられないと。それならチーム名を教えていただきたいと言ったら、肩からはがして下さったのがこれです。海上自衛隊岩国基地第71航空隊のワッペンです」

 2人は、ラフトのなかで、体温を下げないように体を寄せ合っていたが、荒れた海からどんどん海水が入ってくる。2人の体温は下がり始めており、低体温症の危険があった。「今日中に救助されないと危ないかもしれない」と辛坊さんは感じていた。

 US-2が救出できなかった場合に備え、海上保安庁は巡視艇を現地に派遣していた。ただし到着予定時間は翌々日23日の午前3時。ほかに、民間の商船も現地に向かっていたという。こちらの到着予定時間は翌日22日。海難事故があれば、国籍を超えて、近くの船が助けに行くという「シーマンシップ」である。

税金

 今回の救助には多額の税金がつぎこまれた。船や飛行機の燃料費で数千万は下らないと見られている。US-2は離着水時に1基のエンジンを損傷しており、この修理費となると相当の金額になるだろう。

 辛坊さんは、9年前、イラクで人質になった高遠菜穂子さんらを批判するなど、かねてからいわゆる「自己責任論者」だったこともあり、多額の税金投入に多くの批判が寄せられている。

 弊誌も「自己責任なき山歩きを許すな」と題する記事を過去に掲載している。救助ヘリコプターをタクシー代わりに呼びつける安易な救助要請が増えていることを受け、救助費の自己負担を導入すべきではないかとした論稿だ。9年前のイラク人質事件では、記事にはしなかったが、わたしも辛坊さんと同様に自己責任論の立場を取っていた。

【7/3筆者追記】7月2日発売「FLASH」(光文社)に掲載された辛坊さんの手記によると、自己責任論を主張していたというのは不正確であり、辛坊さんの主張は、「国益に反して敵対国に入る(というのは問題がある)」という内容だったとのことである。

 わたしは、今回の遭難事故で辛坊さんらが救助費を自己負担する必要はないと考えている。先の記事のように、準備の疎かな無責任な登山者が増えるというモラルハザードが発生している場合、一種の保険金のような考え方で一定の自己負担を求めていくという考え方はあり得ると考える。しかし、今回のように高度な準備がなされていても、どうしても避けきれないアクシデントまで、全額の自己負担を求めるというのは無理があるのではないか。国には国民の生命を守る責務があるからだ。

 ただし、イラク人質事件で自己責任論を持ち出すような考え方を抱いていたことは、記事にこそしなかったが、誤りだったと率直に撤回したい。いまの日本の最大の問題点は、企業も国民も過度にリスク回避になっていることにあると考えるからだ。安直な自己責任論で守りに入ることを推奨し、事なかれ主義が蔓延するのを傍観するより、リスクを取ったチャレンジに挑む人をもっと応援する姿勢が、いまの日本に求められていると思う。


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