2024年4月30日(火)

Wedge REPORT

2013年7月3日

挑戦

ディンギー授与式の様子

 6月16日。小名浜港では、出港式の前に、ディンギー(小型ヨット)授与式が開かれていた。ヒロさんたちには、小名浜出発に向けて準備をしてきたことがあった。

 「あの3・11の夜、アメリカのサンディエゴで、ニュースを見て、東日本大震災とあの津波を知りました。ショックでした。海がこんなことになるんだ、海で家族を失った人たちのことを察するに、どれだけ海が怖かっただろうかと。何かしたい、自分は何もできない。そのとき、ヨットを贈ろう、とパッと思いついたんです。海のことを憎らしいと思った人たちに、いつかヨットに乗ってもらいたい、素晴らしい海でまたセーリングを楽しんでほしいと思ったんです。私の夢、太平洋横断をサポートしてくれているグループ、SWIS(See What I Seaの略)のメンバーに協力をお願いしたら快く受け入れてくれて、募金活動の結果、2艇贈呈できることになりました」

出港式で挨拶するSWIS代表の浜田敏明さん

 SWIS代表の浜田敏明さんはこう言う。

 「ヒロさんの熱い思いに私たちはひきつけられました。多くの支援者が、東日本大震災の被災者の方々に対して、気持ちは募るのに、何もできないことに悔しさを感じていました。だからヒロさんが福島の子どもたちにディンギーを贈ろうといったときに、みんなが一丸となりました。昨年3月のサンディエゴハーフマラソンで、元メジャーリーガーの大塚晶則さんとヒロさんが完走してファンドレーシングするなど募金活動を行ってきました。この2艇の練習艇を、将来を担う若いヨットマン、ヨットウーマンたちに愛してもらって、海と一体になってくれることを願っています。多くの方々にご協力いただき感謝しています。辛坊さん、ヒロさんの熱い想いを、勇気を出して受け止めてくれて、本当にありがとうございました」

 浜田さんは涙を流しているように見えた。浜田さんの一途な想いが込められた発言に、心打たれた人は多かったと思う。

 2艇のディンギーを贈呈されたのは、いわき海星高校ヨット部と、いわきジュニアヨットクラブだ。松岡遼太郎くん(高2)はジュニアヨットクラブを代表してこう挨拶した。「またヨットができるようになったのは皆さんの支援のおかげです。お二人に会えたのはヨットのおかげ。航海の無事を祈っています」。

 3・11の津波で、いわきサンマリーナの桟橋はめちゃめちゃに壊れ、ヨットクラブの10艇ほどのヨットは全部流されてしまった。艇庫も流され、なかにあったセールやひもも海に消えた。練習を再開したのは今年に入ってからだ。

 松岡くんがヨットを始めたのは小4のとき。父親に勧められたのがきっかけだという。「自然と一体化できるのがいい。気持ちいいんです。もっと広まるといいんだけど」。

海星高校ヨット部の森口壱成くん(左)といわきジュニアヨットクラブの松岡遼太郎くん

 「贈られたディンギーに乗るのが楽しみです。僕たちもいつか太平洋横断、やってみたい!2人を尊敬してます」松岡くんと、海星高校ヨット部の森口壱成くん(高2)は口を揃えた。

 今回のブラインドセーリングには太平洋横断のほかにもう一つ目的があった。それは、海や震災で亡くなった人々への手紙を、その魂が眠る太平洋に届けることだ(「海への手紙、届けます」〔福島中央テレビのページ〕)。


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