2024年4月26日(金)

田部康喜のTV読本

2023年2月22日

 三菱電機・経済安全保障統括室の伊藤隆室長は、AIを活用しているコンサルタント会社の協力を仰いで、製品に使う部品の第1次~第7次までの下請けに至るまで、上記の米国の対象となる企業がないかどうかを調査した。結果はその種の企業はまったくなかった。

 同社のサプライチェーンは38の国・地域に及んでいた。調査対象の企業約8万7000社のうち、中国が約1万社だった。これらの企業に米国の規制に抵触するものはなかった。

 伊藤はいう。「企業の意思決定は(これまで)経済合理性に基づく意思決定の仕方というのが基本にあったわけですけれど、残念ながらその経済合理性以外の意思決定の仕方というものが必要になってきています」。

多国との貿易という課題

 “貿易立国”日本のリスクは、特定の地域を維持して、集中していることである。

 ロボットや半導体に必要なレア・アースについて、日本は全面的に輸入に頼っている。世界の生産の60%は中国である。中国は過去に、レア・アースを外交カードに使った事実もある。輸出を止めたのである。

 三菱電機・先端技術総合研究所(兵庫県尼崎市)では、永久磁石の製造においてレア・アースを節約して製造する技術を確立している。

 大企業ばかりではない。特定地域の集中はリスクが出てきた。EV用のバッテリーを製造している、中小企業のテクノスマート(大阪)は中国向けが80%だった。新型コロナによる中国のゼロ・コロナ政策によって、生産量はコロナ拡大以前の半分に落ち込んだ。

 欧州や台湾向けの輸出を考えている。ただ、それぞれの国・地域によって仕様が異なるので、これまでの生産ラインで輸出の多角化を図るのは難しい。この壁を打破するために、同社は現在、16億円を投資して、新たな実験棟を建設中である。

 アジア経済研究所が試算した2030年の世界経済の動向をみると、グローバリゼーションが滞る最悪のシナリオを示している。国内総生産(GDP)が現在と比較して、米国がマイナス12.0%、中国がマイナス9.2%、そして、日本がマイナス11.6%と推定する。

 同研究所の熊谷聡さんは、次のように分析する。

 「米国と中国の対立ですが、中国はアジアの国なので、アジアのなかに対立の最前線がくる。経済対立の最前線が日本全体にマイナスの影響が出てくると理解できる」

「知の巨人」たちの肉声

 グローバリゼーションはこれからどうなるのか。キャスターの河野憲治氏が訪ね歩いた「知の巨人」たちの言葉に向かい合ってみよう。

歴史学者:ニーアル・ファーガソン

「グローバリゼーションは滅び得るものです。実際、1914年以降に滅び、地域ブロックにほぼ完全に分割されました。米国と中国は戦争に備え防衛費を増やしています。経済的なつながりを持つことが戦争を防ぐと考えられます。人々は失うものが多すぎる場合、戦争を起こそうとは考えられなくなるのです」


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