2024年4月21日(日)

教養としての中東情勢

2023年3月31日

 政権担当通算6期目の首相は最大の援助国である米国の大統領に対しても好き嫌いが激しい。共和党出身のトランプ前大統領とは深夜にたびたび電話するなど個人的にウマが合ったが、その前の民主党出身のオバマ元大統領とは最悪の関係だった。オバマ氏がイスラエルの天敵であるイラン核合意をまとめたからだが、同氏に事前に通告せずに共和党と談合し、米議会で演説したこともあった。

国防相更迭が誤算

 イスラエルを二分させている司法制度改革の要点は2つだ。1点目は政権による判事の任命権の強化だ。判事を選出するのは議会の「判事任命委員会」だが、政府は現在、限定的にしか委員を任命できない規定になっている。

 改革案では、委員会の過半数を政府が任命できるようになる。汚職裁判を闘う首相にとっては強力な援護射撃になる。

 2点目は最高裁が議会で成立した法律に違憲との判断を下した場合、これまでは議会がそれに従わざるを得なかったが、改革案では、議会の過半数の賛成で最高裁の判断を覆すことができるようになる。首相は「裁判所があまりに巨大な力を持ち過ぎた。今後は選挙で選ばれた議員が選挙で選ばれなかった判事の判断を審査できる」と民意の反映を主張している。

 この改革案が議会で審議される中、野党や活動家ら反対派が毎週末、「中東唯一の民主主義が崩壊する」と危機感を募らせ、全土で抗議デモを展開。テルアビブでは数十万規模のデモが繰り広げられた。こうした中、首相の率いるリクード出身のガラント国防相が「混乱で安全保障が脅かされる」として改革中止を訴え、ネタニヤフ首相から更迭される騒ぎとなった。

 更迭劇はリクード内に動揺を引き起こすとともに、反対派の危機感をさらにかき立てた。予備役兵士が任務を拒否し、ゼネストで空港が一時閉鎖された。

 混乱に拍車が掛かったのに加え、「採決で過半数(61議席)を確保できる自信がない」(レビン法相)事態になった。ガラント氏のほかリクードの6人程度が投票に反対ないし棄権しかねなかったからだ。首相の大きな誤算だった。

 首相は採決延期の理由として「内戦の回避」を挙げたが、地元紙によると、実際には「採決しても法案を通す絶対的な確信がなかった」のだ。ヘルツォグ大統領が延期を歓迎し、妥協を探る与野党の協議が始まったが、まとまる可能性は小さい。延期は反対派の勢いを奪い、リクード議員の手綱を引き締めるための首相の〝時間稼ぎ〟との見方が有力だ。


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