2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年4月11日

 日本の核軍縮政策の基本は「究極的核廃絶に向けて現実的な歩みを進めること」、要は核抑止を維持しながら核軍縮を進めることだが、このようなアプローチは、以上のような状況でますます難しくなってきている。

 第一に、核軍縮では米露は(冷戦中の米ソでさえ)基本的には同じボートに乗っていた。その背景には「相互確証破壊」、即ち、核戦争が起これば双方が滅亡することが確実なだけの核兵器を持つに至ったという実態がある。

 また、核兵器保有のコストは非常に高い。厳密な管理体制を維持し、不拡散防護に完璧を期し、劣化に応じて必要な保守を行う。このコストは相当なものである。米露共、必要以上の核兵器を持ちたくないのは同じで、「相互確証破壊」を維持しつつ均衡のとれた形で核兵器数を削減できるならそうしたい訳だ。

 これが、冷戦を通じて米ソ、米露間で各種核軍縮条約が締結された理由だ。しかし、ウクライナ戦争でロシアが核使用の恫喝を行い、この基本的「信頼」関係に疑問が生じつつある。

 第二に、中国の核能力が無視できない規模に拡大しつつあり、米露の優越を固定化する核軍縮合意には応じないと言う現実がある。この2つの面で、ゲームのルールが変わっている。

広島でのサミットで日本は何ができるか

 それでは、主要7カ国(G7)広島サミットという、本来であれば、核抑止と核軍縮の両立という日本のアジェンダ推進に最適の機会が来るにも拘らず、何もできないのか。後約1カ月半に迫ったG7広島サミット自体に高い期待を持つべきではないが、それを一つのきっかけとしてモメンタム(勢い)を形成してくことは不可能ではないだろう。

 現下の状況で、核抑止と核軍縮の両立が一番求められているのは、中国の核軍拡への対応においてだ。日本の国益から見て明確なのは、中国の核軍拡を抑制する、少なくともその政治的コストを大きく上げることが必要なことだ。そのためにどのような対応があり得るのか、知恵を集める必要がある。

 少なくとも、中国の核軍拡に対応するにはまだ時間があるというのは米国の力の過信であり、中国の核軍拡が正当化されるような世界的核軍拡の道を米国が先頭に立って始めるのは良い考えだとは思われない。

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