2024年12月7日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年4月11日

 3月22日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は「ウクライナ戦争は新核軍拡に繋がる恐れ」とのローレンス・ノーマン同紙コラムニストの解説記事を掲載し、ロシアの核使用の恫喝と中国の核軍拡を踏まえ、米国の核戦略議論が割れている現状を説明している。

(iSailorr/cbarnesphotography/CRobertson/hachiware/gettyimages)

 ウクライナ戦争で軍備管理体制の崩壊と核軍拡競争の再発が懸念されている。プーチンは先月、戦略核兵器を制限する新戦略兵器削減条約(新START)を中断すると発表した。

 ロシアが米国のウクライナ支援を新START議論に絡めている結果、交渉再開は実質的に難しい。

  米国で核戦略議論も始まった。ロシアの新START中断を奇貨とし核武装を拡大すべきとの意見もあるが、専門家の多くは、ロシアが核弾頭数上限を守っている限り新STARTを潰すのは避け、選択の責任をロシアに負わせるべきだとする。

 先月の情報脅威分析では、中国は核計画を制限する合意には関心がなく、米露優位維持の交渉には応じないと見ている。米政府高官によれば、中国の約400発の核弾頭は、2035年には配備数で1500発に増加する可能性がある。

 論争は抑止の意味の違いにも帰着する。ある専門家は、中露核兵器数合計の増加に対応し配備済み核弾頭数を増加して中露の基地、指揮統制施設、ミサイルサイロの攻撃を可能にすべきと言う。

 一方、これは危険な軍備競争に繋がるとの意見もある。中国の核増強への対処には未だ時間があり、最優先すべきは米露が新START上限超過を避けることだとする専門家もいる。米露はいずれ核心的懸念(ロシア戦術核兵器への米国の懸念と、米国ミサイル防衛へのロシアの懸念)を議論する余地がある。

 真の問題は敵の核兵器使用抑止のために何発の核兵器保有が必要かということで、相手が持っているものではなく、自分に必要なものを持つことだからだ。

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 このWSJの記事掲載後、3月25日、プーチン大統領は、記者会見で、「ベラルーシへの戦術核配備で同国と合意した」と発言した。懸念されていたことが起きた。ただ、両国がしばらく前からこの核兵器配備を議論してきたのは明らかで、新しい話ではない。

 重要なのは、米国側が、米国の戦略核態勢を調整する理由はなく、ロシアが核兵器を使う準備をしている兆候もない、としていることだ。実際、プーチン大統領はベラルーシにおける核兵器貯蔵施設を7月1日までに完成させるとは表明したが、戦術核配備の時期については何も述べていない。

 より重要なのは、ロシアに核を使わせないようにすることである。なお、米国の核兵器が欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国に配備されているのは公知の事実であり、ロシアが同様のことをベラルーシで行っても即座に核不拡散条約(NPT)違反とは言えないだろう。


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