なお会談後、フォンデアライエンは対中経済関係について、センシティブな技術についてはデリスク(リスク軽減)していく必要がある、しかし「モノやサービスのほとんどのものはリスクがない」と記者に説明した。この点は非常に重要な指摘である。巷では全ての対中貿易がリスクのように捉えられているが、規制は一部製品や分野に限定されるものであり、全面的に規制されるものではない。この点は西側も、大いに強調していくべき点だ。なおフォンデアライエンは、デリスクはデカップル(切り離し)とは違うと中国側に説明したのだろう。
中国の世界観を受け入れたマクロン
マクロンの訪中には、失望させられた。習近平は、4月7日には中国南部の広州までマクロンに同行し、夕食会などでもてなした。マクロンはウクライナと中仏経済を重視し、習近平は対欧突破口をフランスに据え、米欧離反を図ろうとしたのだろう。
7日に中仏は、共同声明を発表し、中仏首脳会談の定例化に合意した。マクロンは、ウクライナ戦争の終結に向けて中国が対ロ影響力を行使するよう求め、対露武器供与をしないよう求めた。しかし習近平からは具体的な確約はなかったようだ。台湾問題への言及もなかったように見える。これはおかしなことだ。マクロンの対中姿勢が心配される訪中だった。
今マクロンは、同盟国や専門家などから、「多極化する世界」という中国の世界観を受け入れたこと、台湾は欧州の問題ではないと述べたことの2点で強い批判を受けている。特に後者につき、帰国機上のインタービューで、「台湾は欧州の問題ではなく、欧州は米国の家臣になってはならない」、「欧州が追随者になることは最悪であり、米国のアジェンダや中国の過剰反応から影響を受けてはならない」と述べた。
4月11日、仏大統領府は、「フランスは米中からなど距離ではない。米国は価値を共有する同盟国だ」とダメージコントロールに乗り出した。12日にマクロンは、台湾につき「フランスの立場は不変」であり、「現状維持を支持」すると釈明したが、発言自体は撤回しなかった。今回の訪中では結果として中国の術策に嵌ってしまったことは否めない。批判されるのも当然であろう。