2024年11月22日(金)

デジタル時代の経営・安全保障学

2023年5月23日

 映画は、ペペがネット上で人気を集め、多くの人に模倣・拡散され、そして漫画の中では全く要素がなかった差別主義者のシンボルとなる過程を描く。当初、4chanを中心に多くのネットユーザーがペペのイラストを複製し、オリジナリティを加えて拡散したが、作者フューリーは気にも留めなかったという。後に誕生した「悲しみのペペ(Sad Pepe)」「ドヤ顔ペペ(Smug Pepe)」といった亜種は最も使われたシンボルだ。

 問題は、4chanやReddit等の掲示板には銃乱射事件、テロリズム、ナチスを賞賛するような過激で攻撃的文化があることだ。ペペはそうした文化と融合し、シンボルと化した。名誉棄損防止同盟(Anti-Defamation League: ADL)のデータベースには、ペペが「一般的なヘイトのシンボル」として登録された。ナチスの鍵十字等と同等の扱いだ。

 そして、白人至上主義運動の「オルタナ右翼」の成長に伴い、ペペはこれら運動のシンボルとなる。オルタナ右翼の代表リチャード・スペンサー、極右のラジオ司会者アレックス・ジョーンズらはこのシンボルを好んで用いた。その後、作者フューリーがどのように行動し、ペペがどうなったかは映画『フィールズ・グッド・マン』に描かれている。トランプ氏自身も支持者が好むペペを選挙戦に利用し、結果、支持者は喜んでさらにペペをミーム化するという循環が生まれた。

社会・文化的進化をつかさどるミーム

 ペペのようにインターネット上で模倣され、さまざまな形に修正されながら拡散するコンテンツは「インターネット・ミーム」と呼ばれる。

「ミーム(meme)」とは、リチャード・ドーキンスが著書『利己的な遺伝子』(原著1976年)で提示したものだ。簡単にいえば、生物進化を支配するのは遺伝子(gene)であるが、その類推で、社会・文化的な進化をつかさどるのが「ミーム」であるとしている。

 これを考える上で重要なのが「模倣」という概念だ。ミームは人々の間で模倣を促し、模倣の過程で淘汰・進化が起こり、新たな文化が定着する。

 この模倣がデジタル情報とインターネットに強く結びついた。一般市民が比較的容易に、ミームへ独自の改変を加え、全世界に拡散できるようになったからだ。さらに2000年代以降にソーシャルメディアが相次いで誕生。ユーザーが自ら生成した画像や動画などのコンテンツ(user generated contents: UGC)を発信・交換・拡散できるようになり、ネット・ミームの興隆はさらに加速した。


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