NBC Newsによれば、このハッシュタグは数日間で6万回以上投稿され、同紙は「風刺画像によるフォトショップ合戦でISISを嘲笑することで、自国の人質事件に挑んでいる」と評した。
人質の安全・解放に有効かどうか、亡くなった方の尊厳をどう考えるかは別として、「クソコラ」が「恐怖」「残忍」「獰猛」「過激」等のISがもたらすイメージを減殺する効果は否定できないだろう。こうしたイメージこそ、ISが世界中の市民を暴力的過激主義に扇動し、外国人戦闘員と資金を吸い寄せる力の源泉である。
社会運動としてのミーム
インターネット・ミームは人々の団結や紐帯(ちゅうたい)を強固なものにする効果があり、集団や結社のシンボルにもなる。
無政府主義的なハクティヴィスト集団「アノニマス」の仮面はサイバーセキュリティ関係で最も有名なミームの一つだろう。この仮面は17世紀初頭に英国で国家転覆を企てたガイ・フォークスを模したもので、直近では同氏をモデルにした英国の映画『Vフォー・ヴェンデッタ』(2005年)で登場した仮面だ。この仮面をモチーフにしたハクティヴィスト集団やハッカーがいれば、アノニマスやその支持者と考えてよいだろう。
リアルな世界でも同様だ。19年以降の香港における「逃亡犯条例」改正案反対に端を発するデモでは、多くの市民がカエルのペペの被り物、ステッカー、看板を用いた。
今後も無数のミームがインターネット上で出現し、一定の影響力を持ち、やがて消えていくだろう。その際、注意すべきことがある。
まずミームそれ自体は善でも悪でもないが、中立的なシンボルではない。有害情報との闘いや社会運動におけるネット・ミームは極めて政治的存在である。ソーシャルメディア上でカエルや柴犬を拡散すること自体が政治的な意味を帯びうる。
それ以上に重要なことは、ネット・ミームを用いた活動や運動の効果である。確かに、インターネット上で暴力主義を扇動し、支持と資金を得ようとするISやロシアのハクティヴィスト集団「Killnet」にネット・ミームで対抗することは有効かもしれない。
しかし、ウクライナでの戦争にロシア軍・当局に「クソコラ」を返し、柴犬で茶化すことにどこまで意味があるだろうか。シリアでのISによる邦人拘束動画の切り抜きをミーム化することは、ISの権威を失墜させることに有益だが、人質の解放に資するだろうか。
ネット・ミームは政治的・社会的影響力を持つが、その現実的な効果を見極める必要がある。
いまやすべての人間と国家が、サイバー攻撃の対象となっている。国境のないネット空間で、日々ハッカーたちが蠢き、さまざまな手で忍び寄る。その背後には誰がいるのか。彼らの狙いは何か。その影響はどこまで拡がるのか─。われわれが日々使うデバイスから、企業の情報・技術管理、そして国家の安全保障へ。すべてが繋がる便利な時代に、国を揺るがす脅威もまた、すべてに繋がっている。
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