1つは、東南アジア諸国連合(ASEAN)、太平洋諸国フォーラム、環インド洋協力連合の3つと、QUADの動きを連動させたこと。これは、インド太平洋全体の動きを調整するために、既存の地域機構を利用する、戦略的な動きといえる。
もう1つは、海底ケーブルに関して、その強靭性確保のためにQUADで協力したことである。海底ケーブルを利用した各国のインターネット網は、各国の安全保障上重要になっている。潜水艦などで攻撃することも可能で、攻撃されれば通信は途絶える。
実際、インド太平洋の海底ケーブル網は、中国が影響力を有する海域、南シナ海などを通るものも多い。しかも海底ケーブル網は、そこにセンサーを設置すれば、マグマの動きや地震をとらえるだけでなく、潜水艦を探知することもできる。
だから、海底ケーブル網における協力は、サイバーから潜水艦対策まで、安全保障上重要なのだ。今回のQUADでは、その部分の協力について、合意がなされた。
モディ首相は、G7にきて、QUADに出て、その後、南太平洋のパプアニューギニアと豪州を訪問した。インド太平洋への関与を高めた重要な出張になっており、対中国戦略として、招待した日本の期待にも応える存在感を示したものといえる。
グローバルサウスの意見を反映させた
3つ目は、グローバルサウスの各国を説得する観点である。今年のG7では、日本はグローバルサウスの支持を獲得することが目標の一つだ。
そもそもグローバルサウスとの関係は、対中国戦略上重要であった。一帯一路構想に基づき、中国がグローバルサウス各国で支持を広げていたからだ。しかし、ロシアのウクライナ侵攻が開始されてからは、対ロシア戦略上も、グローバルサウスが重要になっている。グローバルサウス各国の支持がないと、ロシアに対する経済制裁もうまくいかないからだ。
日本がアフリカのコモロ諸島を招待したのも、その関係だといわれている。これまで繰り返しG7から招待されていた南アフリカが、自らの海軍の港を利用してロシアに武器を輸出した。だから、G7として南アフリカを招待することは止め、もっとG7に協力する国を呼ぶことにしたのである。アフリカ連合の議長国であるコモロ諸島が呼ばれたのは、そういった背景があった。
岸田文雄首相のアフリカ訪問時も、インド太平洋に面するために重要になっているモザンビークを除き、エジプト、ガーナ、ケニアの3カ国は、ロシアのウクライナ侵攻を非難している国々だ。同じグローバルサウスの国でも、G7に近い立場の国をより大事にし、G7側に着いた方が得になるようにしたい。グローバルサウス対策を進め、より多くの国々をG7側に引き付けたいのである。
そこで重要になっているのが、今年G20の議長国として、グローバルサウスの盟主を掲げるインドだ。昨年6月、インドのジャイシャンカル外相は、グローバルサウスを代弁する言葉を述べ、支持を集めた。