2024年4月29日(月)

デジタル時代の経営・安全保障学

2023年6月1日

気になる官公庁のサーマルカメラの行方

 一方、わが国では、空港検疫で新型コロナウイルス流行以前から顔認識サーマルカメラが使用されているし、入国審査の際には、指紋採取と同時に顔写真も撮影され、データベース化されているのは、今となっては常識だ。顔認証は入退室やコンビニの支払い、システムの起動などに利用され、今後、あらゆる場面で使用される、ますます重要な機能である。そうした前提に立つならば、安易に顔認証のデータが流出するようでは困るのだ。

 読売新聞の報道にもあるように、背景に映った映像から設置場所が特定できるケースもある。そういう意味で気になるのが、官公庁など秘匿性が高い場所に設置されていたサーマルカメラの行方だ。

 官公庁が物品を調達する場合は入札形式で行われるが、そのほとんどが最低価格落札方式を採用するため、価格競争力にすぐれた中国製品が選択されるケースが多いのが現状だ。サーマルカメラの設置に際しても、その有効性や何がリスクかを考えもせずに最低価格落札方式の入札を行なっていたのではないだろうか。

 そして不要になったサーマルカメラのデータ消去についても、気に掛ける人がいただろうか。政治家や重要人物の顔画像データが意図的に盗まれる可能性はないのか、官公庁はあらためて不要となったサーマルカメラの行方について調査をして欲しい。

 今回の報道は、サーマルカメラのデータ消去という盲点ともいえる問題点を明らかにしたという点で評価できる。諜報を専門に扱う者としてあらためて考えさせられた。

必要な個人情報保護法ガイドラインの改定

 官公庁やそれに準じる独立行政法人などが顔画像データなどの個人情報を取り扱う電子機器を調達する際に、特定の国の製品を入札から排除することができないとしても、データ消去機能がなければ販売できないようにするなど、個人情報取扱義務だけでなく、電子機器の販売やサービス提供するものに対する個人情報保護法のガイドラインが必要だ。

 データ消去機能がない電子機器を安易に販売するなどもっての外だが、撮影データをクラウド上に無料で保存するサービスもあるなど、データ収集を目的にしているとしか思えないサーマルカメラもある。深刻なデータ漏洩が起こる前に、必要な防止策を取ることに重点をおいた政策が必要だ。

 
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