5月24日の読売新聞が新型コロナウイルス対策で検温に使われたサーマルカメラから顔映像が漏洩していると報じている。サーマルカメラとは体の表面温度を測るカメラで、新型コロナウイルス禍で発熱者を発見するため施設の入り口などに設置され、誰もが一度や二度は、顔写真を撮影されたはずだ。
今は用済みとなったことから大量にメルカリなどのオンラインフリーマーケットに出品されている。そのうちの2台を購入した人が、大量の顔画像が保存されていることに気づいたのだ。
1台は工事現場に設置されていたと思われるもので、作業員風の男性やヘルメット姿の人物が910点、もう1台には葬儀場に設置されていたと思われる画像で、喪服姿の顔画像が約800点保存されていたのだ。パソコンの画面には測定日時、体温、顔画像がならび、発熱者も検索することができたという。
消去されなかった画像データ
問題となっているのは、東亜産業(東京)が発売しているサーマルカメラで、今現在も発売されている。ちなみにフリーマーケットなどに出回っている中古品は、3分の1程度の価格で出品されているようだ。
東亜産業ホームページの説明によると、5万人分のデータ保存が可能となっている。サーマルカメラの購入者によると撮影や記録のための操作画面がなく、取扱説明書にも書かれていなかったそうだ。
読売新聞の報道によるとメルカリには、約70台が出品されているそうだ。1台に最大5万人分の顔画像が記録されているとすると最大350万人分もの漏洩の可能性があるのだ。メルカリだけでこの規模で他のフリーマーケットにも出品されていることを考えると大規模な個人情報漏洩事件ともいえる。
東亜産業は読売新聞の取材に対し、消去する手段を用意していないことについては「転売・廃棄は想定していなかった」と主張し、販売台数に関しては非公表としている。
出品者の個人情報漏洩を問え
今回の問題を踏まえて個人情報保護委員会は「たとえ利用事業者に故意がなくても、個人データを消去せずに廃棄・転売すれば個人情報保護法に違反する恐れがある。漏洩データが1000件以上あれば当委員会への報告義務もある」としている。
個人情報保護法では「第二十二条 個人情報取扱事業者は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならない」と努力義務を謳っている。このサーマルカメラを設置していた事業者は、サーマルカメラが不要になった時点で物理的に破壊すべきであったと考えられる。
個人情報保護法は、個人情報を取り扱う事業者を対象としている法律だが、今回の事態は、個人情報が電子機器に分散保存され、それぞれ異なる個人情報取扱事業者がいるという予想されていないケースだが、大規模な個人情報漏洩事件なのだ。
個人情報保護委員会は、刑事告発とまでは言えないが、今回の事態を重く見て、出品者に対して報告徴収や立入検査を行うべきである。そうでもしないと、転売行為がまだまだ続くことになる。