「給油も充電もいらない車が街中を走る日が来るかもしれない」と聞いたら、どれほど先の未来を想像するだろうか。さらにそれが、2050年カーボンニュートラルの実現につながる技術からもたらされるとしたら─。25年の実用化に向けて東芝が開発を進める次世代型太陽光パネル「Cu2O(亜酸化銅)タンデム型PV」が描く先は、まさに〝究極のエコカー〟だ。
同パネルは軽さと耐久性に優れるためモビリティー上部へ取り付けられ、設置面積が少なくとも、世界最高水準の変換効率により無充電走行を可能にする。一般的な太陽光の変換効率は約20%程度といわれ、これは太陽の光エネルギーのうち、2割を電力に変換できることを意味する。一方で、Cu2Oタンデムの変換効率は試算値28.5%に到達し、設置面積3.33平方メートル当たりの1日の発電量は3キロワット時に達する。この面積の太陽光パネルを下イメージ図のように電気自動車(EV)に搭載すれば、1日の航続可能距離は37キロメートル(㎞)となる。
「『37㎞』という数字は、自家用車を利用する近距離ユーザーの1日の平均走行距離である20㎞から30㎞を十分にカバーできる距離だ。よって毎日の走行を、太陽光から得られる電力だけを用いて〝自給自足〟で走り続けることが可能になる」と語るのは、Cu2Oタンデムの開発責任者である東芝研究開発センターナノ材料・フロンティア研究所の山本和重フェローだ。続けて、「注目すべきは、発電所からの基幹電源に頼らずに走行できることだ」と述べる。
通常のEVは家庭用電源などから充電するが、EV自体が二酸化炭素(CO2)を排出せずとも、発電所から届く電力が化石燃料由来であればネットゼロにはならない。一方で、太陽光エネルギーからの電力のみで走行できれば、モビリティー単体でCO2排出ゼロを達成することができるという。