2024年11月25日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年6月16日

景気下押し要因への習近平政権の対策は

 以上で見てきたように、当面の景気動向を見るうえでのポイントは、①消費の息切れ、②不動産分野に代表される投資の不振、③対外経済関係の先行き不透明感の高まり、である。以前、本コーナー(「立て直しに挑む中国経済に立ちはだかる3つの壁」)で論じた「3つの(景気)下押し要因」と対比させると、①は「需要不足」、②は「期待の弱体化」、③は「供給不安」に該当する。短期的な景気動向の背景には、中国経済の構造に根差す問題が存在することが確認できる。

 こうした事態に直面して中国政府・中国共産党は、軌道修正を図っているだろうか。今年3月の全国人民代表大会(全人代)では、年間成長率目標5%が掲げられたが、付随する経済政策には目立った変化はなく、その直後の重要会議でも政策変更はなかった。

 ただ、報道によると、5月5日に開催された中国共産党の財政経済委員会(主任は習近平国家主席)では、①経済運営における党指導の強化、と並んで、②AIなど新技術を踏まえた現代的産業体系の建設、③安全重視の産業政策推進とコア技術の開発強化、④人口の「質の高い発展」を図ること、⑤教育改革による人材の質向上や子育て支援の強化、など中長期的な経済構造問題が検討されたとみられる。

 また、②③の議論の中では、「安定」の確保と「(対外)開放・協力」が並記されている。国際経済とのかかわりを考えると、この二つの要求は矛盾する面もあるが、財政経済委員会は、「双循環(二重循環)」戦略を打ち出したことで知られるように重要な会議である。今後、政府のスタンスが修正される可能性はあるとみられる。

技術の国産化と対外開放とのバランスはあるのか

 中国経済がこれ以上失速しないためには、中国政府がスタンスを改める必要がある。上記した23年に5%成長するという目標は、22年からの回復という要因を考慮すれば、追加の景気刺激策無しでも達成できそうな数字であるが、このまま対策を打たなければ、既に見たような景気下押し要因がさらに進行し、24年以降の成長率を4%台に下振れさせる可能性がある。

 もっとも、公共投資や不動産へのテコ入れなどを通じた景気下支えは、かつてそうであったように、過剰投資・過剰債務から地方財政悪化に至る副作用をもたらす懸念もある。こうした副作用を抑制しつつ実施できる対策を考える必要があろう。

 国際経済分野では、中国とのデカップリングを見直すデリスキングという用語がEUを皮切りに主要7カ国(G7)でも用いられるなど緊張緩和の徴候が出てきている。他方、中国自身は、国家安全保障重視を経済、社会、科学技術、情報などあらゆる分野に拡大する「総合的国家安全観」を対外経済分野でも要求している。米国との技術摩擦への対応のために技術の国産化を図り、外資との技術交流を制限することは、やむを得ない面もあろう。

 しかし、行き過ぎは禁物である。『反スパイ法』の強化が外資の対中国投資意欲、中国との研究協力や技術協力の意欲を削いでいることは紛れもない事実である。

 グローバリゼーションが揺らいでいる今だからこそ、中国政府には、対外開放を堅持し、そのなかでウィンウィン関係を追求することが、中国にとって弊害よりも利益が大きいことを再度想起してほしいものである。

 
 エマニュエル・トッド氏が「Wedge」2021年10月号のWedge Opinion Special Interview「中国が米国を追い抜くことはあるのか エマニュエル・トッド 大いに語る――コロナ、中国、日本の将来」で、今後の中国社会のあり方について語っている。この記事単体をアマゾン楽天ブックスの電子書籍「Wedge Online Premium」でもご購読いただくことができます。
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