日本は世界と戦うのを諦めてしまうのか
この学び直し事業は「非正規労働者」も対象としているという。そのこと自体は悪いことではないし、非正規の人は制度をうまく活用すれば、年収増につながる可能性はあるかもしれない。だが、その一方で制度のメインターゲットは「生産性の上がらない正規雇用」の人材であり、悪く言えば自分で辞表を書かせて、終身雇用契約から自分で降りて、将来高コスト人材になる可能性から外れてもらうという意図が感じられる。
仮にそうだとしたら、これは大変だ。かつて昭和の時代の日本は、分厚い中間層が当時の世界のニーズに合致する高付加価値製品の製造に高い生産性を発揮していた。今は、国家レベルで経営が誤っているために、こうした分厚い中間層を活かすことができていない。
そんな中で、今回の企画は、中間層を鍛え直して世界と戦うのを諦め、グローバリズムに適応できるのは一部のエリートだけで、それ以外はコストダウンの対象という、実に後ろ向きで敗北主義の思想からできているように思えてならない。
何故このタイミングかというと、一つの仮説が成り立つ。植田和男総裁の日本銀行はやがて「異次元緩和」の出口を模索するであろうが、その際に一定の期間、日本は円高に直面する可能性がある。そうなれば、特に多国籍企業の場合は「日本語と紙とハンコと対面」に縛られた国内の「事務コスト」は国際的な連結決算の中で、一気に削減が求められるであろう。その時に備えて、用意しておくべきコストカットの一つが、この「33万人転職構想」なのかもしれない。
岸田政権はそんな意図はないと言い張るかもしれないが、結果的にそのような推移となる可能性は十分にある。更に、日本経済全体の生産性、あるいはGDPへの影響ということでは、33万人を転職させたことで、かえって全体としてはマイナスの効果となる危険性も否定できない。