一紙だけでは理解が進まない
参加者たちが一様に感じたのは、どういう臨床試験だったかがひとつの記事を読んだだけでは分かりにくいことだった。どの記事を読んでも、「11人が死亡」の見出しが目立ったため、「その治療法に不安を感じて勝手に治療をやめてしまう患者が出てくるのが心配」という意見が出た。また、「11人の死亡を出した治療法を今後も続けていくべきかどうかの判断材料が新聞を読んでも分からない」といった声もあった。
さらに最近は、新聞を購読していない人が多い。「ネットの記事を読んだら、途中で『あとは有料です』との表示が出て来て、最後まで読めなかった。人の命にかかわる記事をネットに掲載しながら、途中までしか読めないのは問題だと感じた」という意見も出た。
確かにその通りだろう。医療健康記事の場合は、ネットに載せるなら全文を載せるべきではないか。
筆者も記事の読み比べに参加したが、一つずつ順番に記事を読んでいっても、どういう臨床試験かがすんなりと頭に入らない。勉強会のあと、図書館に行って、読売、朝日、毎日、産経、日本経済、共同通信(地方紙の記事で代用)の6社の記事を読んで初めて理解が進んだ。
一紙だけでは分かりにくいところが他紙で補えるからだ。しかし、それでも、多くの新聞で免疫治療薬の一般名と製品名が併記されていなかったり、そもそも免疫治療薬の名称がない記事もあり、どんな臨床試験だったかが分かりにくかった。
実は国立がん研究センターがプレスリリース
では、実際はどんな試験だったのか。それがよく理解できたのは国立がん研究センターが4月28日付けで公表したプレスリリースを読んだあとだった。不思議ながら、プレスリリースを読んだあとに各紙の記事を読むと、どの記事に何が欠けているかがよく理解できた。
残念ながら最初に記事を読んだときは、そもそもプレスリリースがあるかどうかさえ分からなかった。せめて記事の最後に「この臨床試験は国立がん研究センターからプレスリリースされ、ホームページで読める」と書くべきだろう。
プレスリリースの存在を載せたからと言って、記事の価値が下がるわけではない。記者は読者との「情報の共有」をもっと心がけてほしいと感じた。
改めて今回の臨床試験を簡単に紹介する。臨床試験は日本臨床腫瘍研究グループが21年から全国59医療機関で実施していた。試験には進行・再発した肺がん患者295人が参加し、半数の147人が「化学療法(抗がん剤)とペムブロリズマブ(製品名キイトルーダ)」(A群)の併用療法を受け、あと半数の148人は「化学療法(抗がん剤)とニボルマブ(製品名オプジーボ)、イピリムマブ(製品名ヤーボイ)の2剤」(B群)の併用療法を受けていた。その結果、B群の併用治療法を受けた148人のうち11人が死亡したため、今年3月30日に臨床試験を中止したというものだ。