2024年5月21日(火)

食の「危険」情報の真実

2023年6月23日

どちらの治療法も標準治療

 リリースを読むと、どちらの併用療法も安全性と有効性が認められ、A群の併用療法は18年12月に、B群の併用療法は20年11月に保険適用となった。つまり、どちらの併用療法も標準治療として広く認められている。ただ、あとから保険適用となったB群の併用療法がA群の併用療法よりも優れているかどうかを調べるために臨床試験を行ったというわけだ。

 ネットを見ると「臨床試験(治験)」と書いてある例もあったが、今回は治験ではない。治験とは厚生労働省から薬としての承認を得ることを目的に行われる臨床試験のことだ。

 今回の臨床試験はすでに治験を経て広く実施されている2つの治療法の優劣を比べるための臨床試験だ。今度の臨床試験で11人の死亡が発生したからといって、B群の治療法が保険適用からはずされるわけではない。

中止に至る途中で登録の変更

 では、なぜ臨床試験は中止になったのか。B群併用療法において、肺炎や敗血症など副作用関連による11人の死亡(7.4%)は当初の想定(5%)を超えたため、中止になったが、11人の死亡を黙って待っていたわけではない。9人が死亡した段階でいったん患者の登録基準を変更し、副作用関連死亡が少なくなるように工夫したものの、新たに2人の死亡があり、中止に至ったという。

 この途中経過については、朝日新聞は「昨年4月までに治療を受けた131人のうち、9人が肺炎などで死亡、いったん試験を中断し、特定の条件を満たす患者を除外して、再開したが、新たな死亡例が報告され、中止となった」としっかりと書いている。一方、毎日新聞と読売新聞はその経過を細かく説明していない。ただ残念なことに免疫治療薬の一般名と製品名をしっかりと併記した新聞はなかった。

会見の狙いは何だったか

 4月28日には記者会見があり、その夜にネットによる記事配信もあった。会見に出席した臨床試験研究代表である岡本勇・九州大学病院呼吸器科科長は会見の狙いを次のように述べている。

 「B群の併用療法が国内で承認される前に行われた国際共同治験で、B群併用療法を受けた日本人の患者は22人と少なかった。今回の臨床試験では148人がB群併用療法で治療を受けているので、さらなる安全性と有効性を確かめる意義の高い臨床試験と考えています。残念ながら、副作用関連の死亡が多く出て、臨床試験は中止となりましたが、これで保険適用が取り消されるわけではありません。今回のプレスリリースの内容は日本肺癌学会、日本呼吸器学会、日本臨床腫瘍学会から学会員に配信して頂きましたので、現場の医師は今回の結果を認識していると思います。記事を読んで不安になったという患者の声も私に届いていますが、患者さん一人ひとりの病状を一番知っているのは主治医ですので、まずは主治医とよく相談して、今後の治療法を考えてほしいと思います」

 今回のリリースの目的は注意喚起であり、「併用療法を中止してください」ではなかったことが分かる。記事を読んで不安に感じた患者は、勝手に自己判断するのではなく、主治医とじっくりと相談することは大事といえそうだ。


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