2024年12月6日(金)

田部康喜のTV読本

2023年7月7日

 ドラマの毎週のタイトルは草花が用いられている。その花言葉と物語の展開を暗示しているのは、脚本家の長田育恵の工夫と思われ洒落ていると思う。

サクラと織りなす家族の物語

 第13週「ヤマザクラ」の花言葉は、「あなたに微笑む」あるいは「美麗」である。

 万太郎と竹雄は、寿恵子と元柳橋の芸者でいまは菓子屋を営む母・西村まつ(牧瀬里穂)と父親代わりに菓子職人の阿部文太(池内万作)を伴って、実家の峰屋に帰ってくる。万太郎と寿恵子が祝言をあげるためである。

 純無垢の花嫁衣裳で式に臨んだ寿恵子の表情は角隠しであまりはっきりとはみえない。お色直しをして、披露宴の会場に入った瞬間、親戚や店の者たちが集まった人々からその美しさに「ほーっ」したため息が漏れる。

 仲人は、万太郎が植物学会誌を作ろうとして、図版から学ぼうと弟子入りした大畑印刷所の義平(奥田瑛二)と妻・イチ(鶴田真由)である。父母と早く亡くした万太郎と姉の綾を育ててきた祖母・タキ(松坂慶子)らわき役陣がドラマを支えているのも魅力である。

 披露宴の席で万太郎が挨拶をする。

 「わしは、峰屋という大樹を離れて寿恵子と芽吹いていこうと思います。槙野の家は姉の綾と竹雄に任せます」と。

 分家の親類たちから反対の声があがる。祖母のタキは静かにこういう。「綾と竹雄を添わせる」と。

 「いまさら、なんじゃ。本家と分家を区別してわしら分家をみくだして!」の怒声があがる。

 タキは諭すように「家とはなんじゃろうね。血筋、カネ、格式。おまんらの幸せが肝心なんじゃ」

タキ  「万太郎、わしの孫に生まれてきてくれてありがとう」

万太郎 「育ててくれて本当にありがとうございました」

 この週のラストシーンは、タキと万太郎夫婦、綾と武雄がヤマザクラを見上げるシーンとなる。ヤマザクラは病んでいて治すすべがみつからない。万太郎は、丈夫な枝を切り取って接ぎ木をしたと告げる。「いつかこのサクラもさきほこるが」とタキ。

 新しいサクラの接ぎ木が大きくなって花を咲かせるなかで、万太郎夫婦と武雄夫婦が幼子を抱いている。

 「らんまんじゃ」とタキの声がする。


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