デジタル化の推進プロセスでは、大量のアナログ作業が伴うことが多い。マイナンバーカードのミスはいずれも、発注者側による無理な注文が起因しており是正可能である。経験豊富なシステムエンジニアに言わせると、一定水準のシステム開発事業者であれば、報道されているようなトラブルは予見可能であり、そのリスクを発注者に提示しているはずである。納期と品質とコストのうち、納期を優先にした結果、混乱が生じたものといえる。
健康保険証一体化の期限は見直すべきでない
健康保険や年金記録が他人のものと紐づけされていた問題は、それぞれの健康保険組合や共済年金組合が委託した会社等による作業ミスが原因だったようだ。ミスの件数が多く、現在点検が行われている。
健康保険証をマイナンバーカードに一本化する期限が先の国会で決まっているが、間違いがすべて是正されるかどうか、そして全国のクリニックにマイナンバーカードから健康保険を読み取る機器が行きわたるかどうかなどを国民は危惧している。
現在は健康保険証からマイナンバーカードへの移行期でもあり、厚生労働省は当面、健康保険証とマイナンバーカードの両方を持参することを推奨している。改正マイナンバー法では2024年をマイナンバーカードと健康保険証の一体化の期限とし、最長1年間の猶予期間を経て25年秋に現行保険証を全面廃止することになっている。
マイナンバーカードを持たない人に対しては、健保組合が資格証明書を発行することになっており、申請を待たずに一律の交付が検討されている。また、暗証番号を自ら管理できない人は暗証番号不要とするなど、マイナンバーカード取得困難者を減らす工夫もようやく始まった。
元々の政策決定が、実際に事務を担う自治体や健保組合が人手不足で疲弊している実情を軽視したこともあり、健康保険証一体化の期限を見直すべきとの論調が大手メディアにもみられるが、上記のような対策を充実することによって乗り切るべきだ。中途半端な状態が長く続くと自治体や関係者の負担はさらに増すことになる。
「番号一体化」の議論に立ち戻れ
現在は国民一人ひとりがマイナンバー、健康保険、年金のそれぞれの番号を持っている。マイナンバーの基本的な設計思想の問題に戻って、健康保険も年金もマイナンバーと同じ番号とする国民的議論をする必要がある。
この議論はマイナンバー制度発足当初に行われたのだが、すべての情報が一つの番号から判明することに対する国民の不安もあって、番号は別々に付与されたまま今日に至った。世界の潮流はもちろん番号一体化である。日本のように別々に番号をつける国は珍しい。
反発を恐れて不合理なままにしておくより、率直に番号一元化の議論を始めたらどうか。それぞれの制度どおしの番号紐づけをアナログで行っている以上、紐づけミスのヒューマンエラーが繰り返し発生しかねない。