2024年7月16日(火)

Wedge SPECIAL REPORT

2023年7月27日

 そもそもLNGとは、天然ガスをマイナス162℃まで冷却し液化させたものだ。日本は欧州のように国境を跨ぐ天然ガスパイプラインがないため、液化して船で運ばなければならないという〝地理的ハンディ〟を抱える。そこで体積が気体時の600分の1になる性質を利用することで、船での大量輸送を容易にした。

「ワーキングプラットフォーム」から撮影した写真。LNGは約500㍍先のタンクへと送られて貯蔵される

 また、産出地で液化する際、ガスの中に含まれる塵や硫黄分を取り除くため、石油や石炭と比較して燃焼時における大気汚染物質の排出量が少なく「クリーン」な燃料とされる。日本は発電電力量の約3割をLNGで賄っている。

「最前線」が担う
電力供給の〝見えざる世界〟

 川越火力発電所運営・燃料技術ユニットの柳谷浩主任は「LNG船は小さいもので12万㎥、大きければ26万㎥にもなる。船を受け入れる際には、船側の設備と陸側の設備を壊さないよう慎重に連携をとる必要がある。大きさや船籍も異なり、過去に来た実績のない船が着桟する時には特に緊張が走る」と明かす。

 同ユニットの武田幸一ユニット長は「万が一、マイナス162℃の液化された可燃性ガスが漏れれば大事故になる。細心の注意を払うが、受け入れ時は常に危険と隣り合わせ。船の大きさによっても異なるが、全ての作業を概ね1日でこなさなければならず、失敗は許されない」と強調した。

 辻田誠副所長は「十分な在庫を持つことを心掛けているが、LNGなら何でも受け入れるというわけではない。産地によって少しずつ成分が違うため重量や熱量が微妙に異なる。性質の差が大きいものを混ぜてしまうとロールオーバーと呼ばれる突沸(タンク内での急速な気化)を招く可能性もあるため、できるだけ熱量を揃えて貯蔵できるよう『タンク繰り』にも気を使う」と付け加えた。タンクや発電設備の管理は最新技術を駆使しながら人員も配置し、24時間体制で行っている。

 「近年は火力発電所に求められる役割や運用が変わってきている」。こう話すのは宮崎博管理ユニット長だ。東日本大震災以降、それまで日本のベースロード電源を担ってきた原子力発電所が稼働停止に追い込まれ、それに代わって火力発電所は電力の安定供給やレジリエンス強化に大きく貢献してきた。だが、世界的な脱炭素の潮流の下、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーの導入が進み、天候不良などによる再エネの変動性を補う「調整力」としての役割が増している。

 「昨今、現場では『デイリー・スタート・アンド・ストップ』を2回行うことがある」と辻田副所長は言う。1日の間に起動と停止を行うことを「デイリー・スタート・アンド・ストップ」と呼ぶが、これを1日に2回繰り返すことも増えているという。つまり、朝の電力需要が大きい時間帯に起動させ、再エネが活躍する昼間の日照時間帯に一度停止、日が沈み需要が増えるタイミングで再度起動させ、夜間にもう一度停止させるのである。

 意外にも知られていないが火力のタービンは、原発よりも高温・高圧の環境下で稼働している。それだけ設備にかかる負荷も重くなる。「できるだけ一定の温度で長時間稼働させるのが効率的だが、1日の間で動いたり止まったりすることが増えると、温度差が激しい分、メンテナンスが大切になる」(宮崎管理ユニット長)。

 それだけではない。「どこの発電所も同じ課題を抱えているだろうが、所員らの高齢化や技術伝承はこれからの大きな課題だ。発電所の仕事は、気象条件や設備の劣化など『自然が相手』の要素が強い。だからこそ、過去の経験やノウハウ、五感をフルに活用し現地現物を確認する重要性を若い世代に伝えていく必要性が高まっている」(辻田副所長)。


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