現代型のシンデレラストーリー
本作では、初めは目立たなかった主人公、潔与一(いさぎよいち)が急速に成長し、ブルーロック内で勝ち上がっていくのが醍醐味になっている。
しかしこの構成が、現代の女性ファンを取り込めるように「非常に上手く」作られているのだ。
本作は少年漫画よろしく、表現や演出が激しめに描かれており、ファンタジー要素が強めの作品だ。そういう意味では本連載でたびたび取り上げた、超リアル志向の『アオアシ』(小林有吾、小学館)とはまた別の方向の魅力があるといえるだろう。
そうした要素の一つに、令和の女性の心を掴む、現代型のシンデレラストーリーというものが散りばめられているのだ。
この作品が特徴的なのは、主人公の潔与一が地味な印象の割に、周囲のライバルキャラクターが「非常に派手なイケメンたち」として描かれていることだ。そうした周囲のキャラクターに、初めは拒絶されるものの、徐々に認められ受け入れられ、共にプレイをするパートナーとして迎え入れられる。
その過程では、パートナーになった相手と別れ、さらに格上の相手とのカップリングが成立していくという、ステップアップが分かりやすく描かれているのだ。
これらにより、読者は主人公に自らを投影して、シンデレラストーリーを疑似体験していくことができる。
現実の2022年W杯でも、日本代表で最もインパクトを残した三笘薫(みとまかおる)が、絶体絶命のピンチに陥ったスペイン戦で、“奇跡の1ミリ“を残して決勝アシストを実現した。このパスを受けてゴールを決めたのは、三笘の小学校時代からの幼馴染である田中碧であり、まるで『キャプテン翼』(高橋 陽一、集英社)の翼くん・岬くんのように、子どものころの誓いを果たした劇的なシンデレラストーリーあった。
偶然に偶然が重なるものだが、まさにブルーロック的な醍醐味を味わうことができたといえる。閉塞感の強い世の中だからこそ、フィクションでもスポーツの世界でも、求められているのはシンデレラストーリー。これをいかに演出して、世の中の女性の心を掴んでいくかが、現代型の女性向けマーケティングのテーマだといえるだろう。