さらなる独裁化の可能性も
プーチン大統領が20年以上にわたり支配してきたロシアが崩壊して新しいロシアが誕生するというなら、西側世界が行動するべき分野は安全保障にとどまらない。ロシア社会全般に対して支援と呼びかけが必要だ。
「西側によるプーチン政権転覆計画」と曲解されない最も賢明な方法で行うべきである。第二次世界大戦後、ドイツが民主化したのに対しソ連が民主化に失敗した経験(’Will Russia ever experience democracy?’ Igor Petrov July 5, 2022)を最大限に生かして西側世界は大規模な行動を開始する必要がある。
専制ロシアが崩壊し、民主勢力が全領土で主導権を握れば物事はかなり簡単だ。西側は大規模なロシア支援を始める。それ自体が大きなダイナミズムを生む。
北米から欧州を経てユーラシア全体から太平洋へと自由経済圏が広がる。世界政治には全く新しい安定勢力が生まれてくる。
しかしロシアは大抵のことは兎に角うまく行かない国だ。今議論している「ロシアの崩壊」もあらゆる障害に遭遇し、専制ロシアをさらに一層独裁化し専制化する可能性がある。
地方は分離独立し、名状しがたい大混乱に陥るかもしれない。プリゴジンの乱の時、正しく行動しなかったとされる治安組織が大規模に強化され、市民的自由は一層弾圧を受ける可能性もある。
最も深刻なのはロシアの混乱が外国勢力の介入と簒奪(さんだつ)を招くことだ。それはそれで世界政治に巨大な混乱を生む。
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は7月のアスペン安保会議で講演し「復讐はプーチン大統領の得意技だ」と述べ、ロシアでの諜報活動を強化していると述べた(’CIA Director: Putin’s Hold on Power Betrays “Significant Weaknesses”’ THE CIPHER BRIEF AUGUST 20, 2023)。
果せるかな、バーンズ長官の予測は当たっていたようだ。サンクトペテルブルグに向かっていたプリゴジン隊長の搭乗機が8月23日、墜落し、プリゴジン隊長が死亡したとみられる。時をほぼ同じくして、プーチン大統領はプリゴジンと連携していたとされるスロビキン将軍を解任した。
世界と国民に自分の権威と威力を示す為に劇的な手段を使った。アトランティック評議会の専門家はすぐさま「今回の措置はプーチン大統領の権威を急激に高めるモノであり、中国政府は心底歓迎している」と論じている(’Experts react: What the Prigozhin plane crash reveals about Putin, the Wagner Group’s future, and the war in Ukraine’ Atlantic Council, August 23, 2023)。
ロシアでは大抵のことは旨く行かない。民主化への道のりは容易ならざるものがある。